ナベリウス、森林。
 
 何かを探すよう、歩く人影。
 顔は仮面に覆われていて見えない。
 
 
「……どこにいる」
 
 
 その人は何かつぶやいたような気がしたが、次の瞬間そこから消えてしまっていた。
 
 
「……もういいか」
 
「ぷへぅっ!」
 
 
 ルクスくんがアタシの口をふさいでいた手を離す。
 結構な時間ふさがれてたから息苦しかった。空気がおいしい……
 
 
「いきなりなんなのよぅ」
 
「明らかにやばいのがいただろ! お前が騒がないように先に手を打っただけだ」
 
「ものすっごい苦しかったわよ!? ルクスくんちっちゃいのに力強いんだからー!」
 
「次ちっちゃい言ったら燃やすぞ!!」
 
「ごめんなさい!!」
 
 
 ルクスくんは怒らせると怖い。ちっちゃいのに。
 怒鳴ると怖いしテクニックしようとしてくる。シップでも蹴るし殴ってくるし。
 
 
「っていうか今の、何だったのかしら。ひと?」
 
「形は人だったが……アークスじゃなさそうだな。けどダーカーとも……少し、フォトンが違う気がした」
 
「んむ……わかるもんなの?」
 
 
 まあな、とルクスくんが呟く。  
 
「フォトン感知については自信あるんだ。さっきのあれは……距離があったから正確にはわからないけど」
 
「ルクスくんもわかんないんじゃ……あだっ、あだだだだだ!!」
 
 
 いきなりほっぺをつねられる。
 ルクスくんは怖い顔だ。しまった怒らせたー!!
 
 
「うるっさい生意気だぞ馬鹿シャル! 最低限お前よりは能力ある自信あるけどそれでも万能なわけはないだろ!!」
 
「わ――――――!! ごめんなさ、ごめんなさーーーいーーーーー!!
ほっぺつねるのはやーーめーーーてーーーーーー!!」
 
「っていうかお前やっぱり騒ぐよな! 口ふさいで正解だったっ!!」
 
「ルクスくんがつねるからーーーーー!!」
 
 
 ルクスくんが乱暴に手を話す。
 うう、ほっぺがひりひりする……レスタはして、くれないんだろうな。
 
 
「それはさておき、今は見つからずに済んだが……鉢合わせたらどうなるかわからないな。
お前、一人で探索することもあるだろ? なるべく警戒しろよ。何か探してるみたいだったし、徘徊してそうだ」
 
「うぅ、はあい……ふえ? 何か探してる、みたい?」
 
「ああ、様子からして。どうかしたか?」
 
 
 ルクスくんに尋ねられ、アタシは考え込む。
 前に聞いたことがある気がする、そんな話。
 
 
「えっと……何か探してるみたいなダーカーがいるって、パティちゃんとティアちゃんからこないだ聞いたの」
 
「パティとティア……ああ、自称情報屋チームか。うわさは聞いていたが……案外まともな情報持ってるんだな」
 
「うん、本当だったってことよね。……どこかのチームが油断してやられたって話も聞いたの。それも、やっぱり……」
 
「信憑性高い、かな。……ますます警戒が必要だな。お前も気をつけろよ」
 
 
 ルクスくんがぼそりとつぶやく。
 あれ、心配してくれてる?
 
 
「お前が怪我して帰れなくなってもオレは迎えに来ないから。ルームメイトとか関係ないし」
 
「……やっぱり、ルクスくんひーどーいーのー……」
 
「るっさい、行くぞ。目的地はこの先だから……迂回するか」
 
 
 
 
 そういえば、前に会って以来何回かパティちゃんとティアちゃんにはいろいろ話を聞きに行ってる。
 話を聞くのは楽しいし、何か大事なことが聞けるんじゃないかって気がするから。
 ……ちょっとパティちゃんの話が早いのは、大変だけど。
 
 
「あ、こういうのがあるよ。危険なアークスの話っ!」
 
「危険な……? えっと、それってどういうことかしら?」
 
 
 ある時、話を聞きに行ったら、パティちゃんがまた新しいことを教えてくれた。
 ……「きけんなアークス」、言葉の意味は分かるけど、どういうことなのかよくわからない。アタシは首をかしげた。
 
 
「アークスって一口にいうけど、みんながみんな正義の味方ってわけでもないんだよね。
戦い大好き、敵味方関係ない!ってテンションのチームや、いちいち難癖つけてくるチームとか。
……思い出すだけで腹が立ってきたなあ」
 
 
 急にしかめつらになるパティちゃん。
 ティアちゃんはそれを見てあきれ顔。……何かあったんだろうなあ。
 
 
「パティちゃんの私怨はさておき……アークスの大多数は規律を守り正しい行いをする人たちよ。
ただ、組織の肥大化に伴って、一部が徐々に腐敗してきているの」
 
「ふはい……?」
 
「うん、だめになっちゃう……っていうとちょっとアレだけどね。
性格よりも力が求められる世界だから、仕方なくもあるし」
 
「しつこいやつはほんっとしつこいから、目をつけられると面倒だよー! 気を付けてね!」
 
 
 ……アークスは思ったよりも「あぶない」ことがあるらしい。ある程度はわかっていたつもりだけど、なんというか、思ってた以上に。
 アタシはまだ他のアークスの人って知らないけど、怖い人もいるんだな……。
 ……ルクスくんは怖いけど、なんとなく違う気がする。たぶん。
 
 
 
 
「お、シャルじゃないか」
 
 
 ナベリウスの森を歩いていたら、声をかけられた。この声、ゼノさんの声!!
 きょろきょろと見回し、振り向くとそこにはゼノさんとエコーさんが立ってた。
 
 一度時間を巻き戻したこの世界。
 修了任務の時はゼノさんたちとは会わなかったけど、だからといってゼノさんたちと会ってないということまでははじめから、にはなっていなかったようだ。
 ルクスくんの時は……あれだったけど、とりあえず、全部が全部やり直しってわけでもないらしい。
 
 
「はわっ、ゼノさんッ!!」
 
「奇遇だな、こんなとこで会うなんてよ。元気に……やってそうだな?」
 
「元気です、アタシはとっても元気ですーっ!」
 
 
 ゼノさんにあえるなんて、とってもラッキーなの! 嬉しくて頬が緩む。
 ルクスくんは今まで見たことないほど嫌そうな顔してるけど、なんでかしら?
 エコーさんはルクスくんのほうに視線を向ける。
 
 
「えっと……そっちのあなたは、シャルのお友達?」
 
「ただのルームメイトです。ルクス・バンボロットといいます。
お噂はシャルから伺ってます、ゼノ先輩、エコー先輩。今後よろしくお願いします。
あとバカシャルが迷惑かけてすいません」
 
「なんでアタシが迷惑かけてるぜんてーになってるのぉ!?」
 
「迷惑なんて思ってねーよ。そっちは任務中か?
こんなところであったのも何かの縁ってやつだな、ちょっと手伝わせろ」
 
「はわっ、いいんですか!?」
 
 
 ゼノさんと一緒におしごと! うれしくて思わずとび上がりそうになる。
 が、エコーさんがガシッとゼノさんの肩を掴み、ルクスくんがガシッとアタシの首根っこを掴む。
 
 
「はしゃぐな馬鹿シャル。礼儀とかそういうのを知らないのか」
 
「うれしいから喜んじゃダメなのぉ……」
 
「ちょっと、ゼノ。あたしたちも任務中なんだけど」
 
「細かいことは気にすんなって、それにこっちの任務はあらかたけりはつけておいたはずだぜ?」
 
「え、あ、あれ、本当だ、いつの間に……」
 
 
 アタシがルクスくんに叱られてる横で、エコーさんは端末を開き情報を調べて目を丸くする。
 ゼノさんはため息交じり。
 
 
「お前が原生生物にビビって逃げ回ってる間にだよ」
 
「び、ビビってなんかないっ! まったくもう、好きにしなよ!」
 
「よしよし、許可も出た。それじゃ行こうぜシャル、ルクス」
 
「はーい! よろしくお願いしますーっ!」
 
 
 ゼノさんとお仕事、ゼノさんとお仕事!
 うれしくてスキップしそうだ。ルクスくんが首根っこ掴んでるせいでできないけど。
 
 
 
 
 危ないとか、そういうことは、まだこの時のアタシは知らなくって。
 まだ夢物語を夢見ているような。
 
 
 
 
 
 
 
 
  あとがき
  あのひとをやっと書けてうれしい(滝涙)
  ほとんど進んでませんねなんというか。重要シーンだけぶち込んでる感じです。
  えっゼノさんのシーン必要だったかって? 多分必要だったよ……僕の心の安寧的に……



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