もう一度、巻き戻る。
何か、知らなければいけないことがあるような気がして……
「……い、おい、相棒! どうしたんだよ、ぼーっとして!」
アフィンくんの声。顔を上げると、目の前に広がるのはナベリウスの森林の風景。
また修了任務かあ……いや、マターボードのおかげなんだと思うんだけど。
今度は何をすればいいのかしら……
「あ、えっと、ぼーっとしてたかしら。だいじょうぶよ?」
「もしかして、修了任務で緊張してるか? わかるわかる、すげーわかるよ」
アフィンくんは変わらない調子だ。
3度目の修了任務。……アフィンくんは知らないんだろうなあ……
とりあえず、先に進まないと。
「とりあえず基本的な動きとか……あっ、相棒ちょっと待てよ!」
「はっ、ごめんなさい! 置いてくところだったわ……えっと、そうね、進みながら……」
アフィンくんと話していた、そのとき。
『……どこだ』
声が、聞こえた気がした。
前とは違う。なんだか不気味な声。
なんだか、背中がぞわぞわするような……嫌な予感がする。
「……相棒?」
「……大丈夫よ、行きましょう」
この後に起きることは、わかりきってる。
でも、何が違うのかはわからない。……今の声くらいしか、まだない。
このあと、何か起きるんだろうか……?
アフィンくんとともに、森林を歩く。
念のため、通信機からの連絡に気をつけつつ。
「……相棒ー、通信機気にしてどうしたんだ?」
「う、うん、ちょっと……」
少し歩いたところで、サイレン音が鳴り響く。
『管制よりアークス各員へ緊急連絡! 惑星ナベリウスにてコードD発令!
……空間浸食を観測、出現します!』
やっぱり、『あの時』と同じ通信。
そして、同じように目の前にダーカーが沸いて出てくる。
来ることはわかってたけど、やっぱり心臓に悪いなあ……
『全アークスへ通達!
最優先命令コードによる、ダーカーへの厳戒令が下されました!』
「こいつらが、ダーカー!? なんで……ナベリウスにはいないはずじゃ!」
あの時とおんなじ。
確か、前はマトイちゃんを助けたけど……前に向かったほうをちらりと見る。
「お、おい相棒! どこ見てるんだよ、目の前のこいつら何とかするんだろっ!
そっちが気になるんならこいつら片づけてからにしようぜ!」
「もちろん……え、あれ?」
一瞬、背中がざわつく。
マトイちゃんがいたのとは逆の方向を向くと、そっちのほうにも道があった。大岩でふさがれているようだけど……
「……あっちにも道が……? でも、なんか嫌な予感がビシビシするんだけど」
「本当ね……」
「どっちに行くにしろ、目の前のダーカーを片付けてからだな……!」
「ん、ちゃちゃっとやっちゃうわ!」
アタシたちは武器を構え、目の前のダーカーたちを撃ち抜き、倒す。
思ったより簡単に倒せて、なんというか、怯えていた昔が懐かしく思えるくらいだ。
成長してるわよね、アタシ!
辺りのダーカーを一掃し、いったん一息つく。
「このへんのダーカーは片付いたか……相棒、どうするんだ?」
「うん……あっち、行ってみたいの」
アタシは大岩で道がふさがっている方を指さす。
嫌な予感はするけれど、でも、行かなきゃいけない気もする。
「あっちかあ……相棒が行くならついていくけどよお」
「巻き込んでごめんなさい、アフィンくん。ついてきてもらえるのは……助かるわ」
ちょっと申し訳ない気はするけど、かといってアフィンくんを置いていくわけにもいかない。
アタシたちは大岩のあるほうの道へ向かう。
大岩は少し突いただけでぱらぱらと崩れた。
これなら壊すのに苦労はしないだろう。持っていたランチャーで、大岩を吹き飛ばす。
瓦礫同然になった岩の向こうは、ダーカーが多くいるようだった。
『今まで』でもこんなにいなかった気がするんだけれど。
「なんか、ダーカー多くないか……?」
「でも……行かないと」
進まないと。この先に何があるか、確かめないと。
なぜか……そんな気がした。意味があるかどうかなんて、わからないけれど。
アタシたちは先に進む。遭遇したダーカーは、適宜倒しつつ。
奥に進むごとに、いやな感じが強くなっていく。
進み続け、ふと足を止める。
アフィンくんも何か気付いたようで、覗き込むように先を見る。
「あそこにいるの、人、だよな……? 何だ、あいつ」
「……わかんない」
その先の、行き止まり。
そこには、人が立っていた。人……のはずだ。
黒い服を着ていて……顔は仮面で覆われて見えない。
ただ、空気……ううん、フォトンだろうか……は異様だ。
ダーカーみたいな………それにしては、何かがおかしい。何か、はわからないけど……
「なんだあいつ、気味悪い……人間だよな、でも、なんだこれ……」
仮面の人物はこちらを向く。
アタシはいつでもライフルを構えられるよう、身構える。
「貴様は……」
アタシに反応を示してくる仮面の人物。
え、なに、アタシになにかあるの?
「え……相棒、お前の知り合いか?」
「そ、そんなわけないじゃない……」
こんな知り合いいない。知り合いなんてそんなにいないんだから、こんな人いたら絶対覚えてるし。
おろおろと慌てふためいていると、いきなり仮面の人物が背負っていた大剣を構えた。
「……殺す」
そして、小さくつぶやいた後こちらに駆けてくる。
まずい! いくらなんでもわかる、このままじゃ危ない!
アタシはライフルを構えようとするが、慌ててしまい手が滑りうまく手に取れない。
このままじゃ、間に合わない……! 怖い、怖い、やだ……!!
と、その時、目の前に人影が割り込んできた。
ガギン、と金属音が響く。
アタシたちの目の前には、青い髪の大きな人。拳に装着された武器……ナックルで、剣を受け止めている。
直後振り払い、数度殴りかかるが仮面の人物はそれをすべて剣で受け止めた。
そのまま、にらみ合う二人。
「おいおいおい……気まぐれでも、たまには任務に来てみるもんだなあ。
面白れぇことになってるじゃねえか。うまそうな獲物が二匹も同時に……くふ、くふふっ、ふはははっ!」
楽しげに笑う、ナックルの人。
え、な、なにが起こってるんだろう……助かったけど、助けてもらった気がなんか、しない……
戸惑っていると、すたすたと大きな帽子の子がこちらに歩いてきた。
「おいシーナ、こいつらは誰だ。どこのどいつだ。さっさと調べろ」
「はい、ゲッテムハルト様」
シーナと呼ばれた子は端末を開き、データベースを検索する。
しかし、一通りデータを検索して、首をかしげた。
「……? あの、ゲッテムハルト様。そちらの方の情報、どこにもありません」
「何ぃ……?」
ゲッ……名前なんて言われてたっけ……その人がこちらに顔を向けようとした途端、仮面の人物は大きく剣を振るい、ゲッテムさん……でいいかなもう……を軽く吹き飛ばす。
仮面の人物はそのまま高くジャンプし、どこかへ行ってしまった。
「ちっ、逃げやがったか。なかなか楽しそうだったってのに」
ゲッテムさんはそう言いつつこちらに歩いてくる。
アフィンくんは震える声で「なんだよ一体……」と呟いた。
「よぉ、そこのお前」
「はっ、はい!?」
「てめぇじゃねえよ! 黙って端っこで震えてろ!」
アフィンくんに向かってどなりつけるゲッテムさん。アフィンくんはその声に驚いてしまう。
酷いこと言うな……と思っていたら、ゲッテムさんはアタシのほうに視線を向け、アタシを指さす。
「お前だ、お前。今のやつ、お前を狙ってたよなあ? あいつは何だ、ナニモンだ?」
「うえっ、そんなこと言われても……あ、えっと、そうだ、助けてくれて、ありがとうございます」
少し怖くて気が引けるが、助けてもらったのは事実だ。
アタシは恐る恐るお礼を言う。
「ありがとう、だぁ……?
くふ、くふふっ、ふはははっ! めでてぇやつだな、てめぇはよ!」
「ふぇっ!?」
「そんな何の役にも立たねえ言葉はダーカーにでも喰わせちまえ!
それよりもやつの情報だっ!」
なんでお礼を言って怒られなきゃいけないのぉ!? しかもなんかすっごい言い方!!
ルクスくんでもこんな怒鳴り方しないし! 怖いこの人こわい!!
「情報とか……知らないわよ、全然知らないっ」
「そうか……その様子だと本当に知らなさそうだな」
だからそう言ってるじゃない!
アタシはなんとなく不満で、ゲッテムさんをにらみつける。
ゲッテムさんをこちらをじとりとみてくる。
「雰囲気はいい感じだが……弱い。お前とヤるのは、まだ早そうだな」
「な、何がよ……!」
「うるせぇ。途端につまんなくなっちまった。帰るぞシーナ! トロトロすんな!」
「はい、ゲッテムハルト様。……それでは、シャル様。失礼いたします」
立ち去るゲッテムさん。
シーナさんはかるくこちらにお辞儀をして、ゲッテムさんについていった。
一瞬、沈黙。
アタシとアフィンくんはその場に座り込む。
「ほんっと、何だってんだよ一体ぃ……」
「うぅ、こわ、怖かったぁ……泣きそうよぅ……えぐ……」
「相棒、相棒ー。涙出てる、もう泣いてる」
アフィンくんに言われ、アタシは慌てて目元をぬぐう。確かに、ぼろぼろと涙がこぼれていた。
緊張の糸が切れた、っていうのはこういうのを言うんだったろうか。
「でも泣きたくもなるよなあ……なんかどっと疲れちまったし。
戻ろうぜ、相棒。……立てるか?」
「うー、だいじょうぶ……」
あとがき
たのしい……楽しい……(拝みながら)
というわけでぺるそなとゲッテムさんたち登場回でした。
シャルが終始なさけなくて困る。
← * 戻る * →