巻き戻る―――――
 
 
 
 
 巻き戻った後、アタシは地下坑道を探索する。
 手がかり、何かあるといいんだけどなあ。例えば、あの記号のヒントとか……
 
 周りを見回しながら歩いていると、フーリエちゃんの姿を見つける。
 声をかけようと近づくと、その隣にはリリーパ族の姿もあった。
 ずいぶんと仲良くなっているみたいだというのが遠目にもわかる。
 
 
「フーリエちゃん、こんにちはなの!」
 
「あ、シャルさん。探索の途中ですか?」
 
「うん、フーリエちゃんは? そのリリーパ族とお話してたの? お話、できるの?」
 
「うーん、お話というほどでは……こうして近寄ったり触れ合ったりはできるようになったのですが」
 
 
 フーリエちゃんは苦笑する。
 隣のリリーパ族は機嫌がよさそうだ。なんというか、すごく仲良くなったみたい。
 リリーパ族はフーリエちゃんの顔を覗き込んでくる。
 
 
「り? り?」
 
「ん? そう、この人と私は仲間だよ? うーん、わかってくれるのかなあ……わかる?
な・か・ま。と・も・だ・ち」
 
「り、り、り……?」
 
 
 リリーパ族は首をかしげる。
 うーん、何かお話してるんだろうけど……
 
 
「とまあ、肝心の言葉についてはこの通りです。私の理解が追い付いていません……
この子たちは声で交流していますし、意思疎通は可能だと思うのですが……」
 
「む、むむぅ……お話するのって、思ったより難しいのねえ」
 
 
 そうですね、とうつむくフーリエちゃん。
 フーリエちゃんに、リリーパ族が歩み寄り話しかける。
 
 
「り、り、り、り?」
 
「ん? 私とシャルさん? そう、ともだち……って、あれ? 語数は同じ……?」
 
「確かに、今なんだかともだち、って言ってるように聞こえたわ。
本当にそう言ってるかはわからないけど……」
 
「でも、もしかして……発声器官が私たちと違うだけで……?」
 
 
 何か考え込むフーリエちゃん。あれ、なんだか難しい話になっちゃった?
 リリーパ族はりりり、と声をあげどこかに走り去っていく。
 
 
「あ、ちょっと待って!
すみませんシャルさん、私、あの子を追いかけますので!」
 
「う、うん、気を付けてね!」
 
「はい、シャルさんもお気をつけてーっ!」
 
 
 フーリエちゃんは手をぶんぶんと振りながらリリーパ族が走って行ったほうに駆けていく。
 ……頑張り屋さんなんだなあ。なんだか、フーリエちゃんががんばってたらリリーパ族の言葉がわかる日も近いかもしれない。
 
 とはいえ、今のところあの文字についてわかった感じは正直しない。
 もう少し調べていこうかしら。
 
 
 
 
 そのあとも地下坑道を調べながら歩いていく。
 記号らしきものは確かにあったが、ヒントみたいなものがあるわけなかった。
 ……全然わからない。
 
 おねーちゃんやルクスくんだったら読めるのかしら?
 いやでも、それでも難しいわよね……なにがわかったら、言葉っていうのはわかるのかしら……?
 
 うんうん悩みながら歩いていくと、物陰にうずくまる人影を見つけた。
 かすかに聞こえる荒い息。
 誰か、動けなくなってる? アタシは慌てて駆け寄る。
 
 
「その足音は……シャル様?」
 
「シーナちゃん!? え、ど、どうしたの!?」
 
 
 こちらに顔を向けるシーナちゃん。しかし、すぐに視線をそらす。
 傷だらけのぼろぼろだ。これ、早く帰還しないとだめなんじゃ……
 
 
「少し、怪我をしただけです……放っておいてください。優しく、しないでください」
 
「なんで!? 放っておいたらだめじゃない! 待って、回復剤なら持って……」
 
「私に、そんな資格はないんですっ」
 
 
 シーナちゃんが声を上げる。
 アタシはその声に一瞬ひるんでしまった。
 ……優しくするのが、ダメなの? どうして?
 
 
「10年前のあの時に……全部なくなってしまった……。
ゲッテムハルト様が笑ってくれるまで、いえ、あの人がもう一度誰かを信じられるようになるまで……私は……」
 
「……シーナちゃん」
 
 
 10年前に何があったの、と聞こうと口を開く。
 しかし、その言葉はかき消された。
 
 
「シーナぁ! てめえ、なに下らねえことをぺらぺらとしゃべってやがる!」
 
「あ……ゲッテムハルト様」
 
 
 不機嫌そうな顔で、ゲッテムさんがこちらに歩いてくる。
 ゲッテムさんはシーナちゃんをにらみつける。
 
 
「口を動かす余裕があるなら、さっさとその体を動かせ!」
 
「……はい」
 
「ちょ……ちょっと! 怪我してるのに、なんでそんな……!」
 
「テメェも余計な詮索するんじゃねぇぞ? 未熟なままで食われたくなかったらなっ!」
 
 
 吐き捨てるような言葉。
 それに言い返せる言葉は思い浮かばなかった。
 ゲッテムさんはすぐに歩いていってしまう。
 
 アタシはシーナちゃんに視線を向ける。
 シーナちゃんはよろよろと立ち上がる。
 
 
「あっ、シーナちゃん……」
 
「……シャル様、申し訳ありません、でした」
 
 
 ふらつきながら、ゲッテムさんの後を追うシーナちゃん。
 
 ……頭の中は疑問でいっぱいだった。
 なんで、どうして、わからない。
 その答えを知る機会はあるのか……
 
 でも、たぶん、いまはまだ知るときじゃない。
 今できることをしないと。
 
 ……でもなんか疲れがどっときたから帰ってもいいカナー……
 
 
 
 
 結局その日は帰還して、次の日にまた地下坑道に向かう。
 
 またフーリエちゃんの姿を見かけたので、アタシは駆け寄ってみた。
 
 
「フーリエちゃん! 昨日、どうだったかしらー?」
 
「あ、こんにちは、シャルさん!」
 
「り、り!」
 
 
 こちらを向いて、ぶんぶんと小さな手を振り回しながらアタシに話しかけてくるリリーパ族。
 
 
「り、りー♪ ……って、なんて言ったのかしら?」
 
「きっと挨拶してるんですよ。
……あの後も、この子たちといろいろ話していて私、わかったんです。
完全に理解するんじゃなくて、感覚で分かり合えていればいいって」
 
 
 フーリエちゃんがほほ笑む。
 なるほど、それで『きっと』なのね。でも、その『きっと』は当たってる気がする。
 
 
「そもそも、発声器官も違いますし、完全理解はちょっと無理な話で……いやはや、面目ないです」
 
「り、り、り!」
 
 
 リリーパ族が嬉しそうに声を上げる。
 フーリエちゃんはしゃがみこみ、リリーパ族と視線を合わせる。
 
 
「ふふ、うん、そうだね。大丈夫だもんね。そう、気持ちで分かり合えれば大丈夫だから……。
……キャストの私がこんなこと言うのは、なんだかちょっとおかしな感じですね」
 
「でも、アタシもそう思うわ? 気持ちが伝わればじゅーぶん!
おねえちゃん……えっと、アタシのお友達のキャストの人もそう言ってくれそうだわ」
 
 
 言葉だけ伝わって、気持ちが伝わらなかったら悲しいもの。
 それだったら、気持ちだけでも伝わったほうがずっといい。
 
 リリーパ族は、フーリエちゃんの足をポンポンと叩く。
 
 
「り、り、り! り、り!」
 
「わわ、わかった、わかりましたって!」
 
「あら、リリーパ族さんはフーリエちゃんに用事かしら? アタシ、邪魔?」
 
「というわけではないと思いますが、あっちに行きたいみたいです……それじゃあシャルさん、また今度!」
 
 
 歩いていくフーリエちゃんにアタシは手を振る。
 
 ……フーリエちゃん、すごいなあ。
 リリーパ族と、言葉が通じない子と気持ちを通じ合わせられるなんて。
 アタシもリリーパ族とお話……お話? してみたいな。なんだかとっても、素敵だわ。
 今度、フーリエちゃんにお手伝いしてもらって、リリーパ族とのお話に挑戦してみようかしら……なんて。
 
 楽しみなことが増えていく。
 
 そして、また2回目が続く。
 
 
 
 
 
 
 
 
  あとがき
 地下坑道編その2、会話いろいろです。
 イベクロ見てると大体1日1回くらいで会話が発生してるんですが、この小説だと詰め込んだり詰め込まなかったりしています。
 あとリリーパ族との絡みが楽しい!シャルのあほさが目立つから!な!
 

 



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