惑星リリーパ。
 砂漠で覆われたその地下には、人の手で作られたような建物……? があった。
 作られた道はとても複雑なうえ、センサーや危ないトラップが設置されているときもある。
 
 アークスはそこを地下坑道と呼んでいる。
 その地下坑道に調査許可が降りたアタシは(手ごわいエネミーがいるところとかは、許可が降りないと調査できないのだ)、さっそくそこを訪れていた。
 
 
 
 
「地上に比べたらめちゃくちゃ歩きやすいのよね!
関節に砂が挟まらない! ボディメンテが楽!」
 
「もう、おねーちゃんてば」
 
「おねーちゃんはシャルに昔メンテ中なのを見られて怯えられたおかげでメンテには気を使ってるのよぉ?」
 
「今は怯えないし、あの時のことは本当反省してるからーっ!」
 
 
 クラベルおねーちゃんと一緒に地下坑道に来たアタシ。
 おねーちゃんは地下坑道が好きらしい。(というか、砂漠のほうが苦手……みたい)
 
 
「でも、砂漠の下にこんなのがあるなんてすごいわね」
 
「一部機能はまだ稼働してるらしいのよねー。センサーとか、ベルトコンベアとか。
機甲種もセキュリティ強めって言うの? 敏感で攻撃的なのが多い感じだしね。
まあ……全然調査進んでないみたいだけど」
 
「へぇ……」
 
 
 知れば知るほど、不思議なことが増えていく。
 これからもしかしたらわかるかもしれないことも、いっぱいある。
 ……いろんなことが、楽しみだなあ……
 
 そう思いをはせていた。
 しかし、突然なにか不穏な気配を感じる。
 ダーカーに似てる……けど、ちがう。というか、これはどこかで感じたことがある……
 
 
「お、おねーちゃん、こっち隠れて!」
 
「んー?」
 
 
 アタシは近くのコンテナの影に隠れ、小声でおねーちゃんを呼ぶ。
 おねーちゃんは足音を立てず、静かにこちらに歩いてきてアタシの横にかがみこむ。
 
 
「なになに、どうしたの?」
 
「えと、おねーちゃん、しー……」
 
 
 こっそりと、コンテナの横から通路の向こう側を覗き込む。
 
 ……そこには、あの仮面の人物が立っていた。
 何かを探すように、辺りを見回している。なんで、あいつがここに……?
 
 息をひそめ、仮面の人物が歩き去っていくのを待つ。
 姿が見えなくなったのを確認して、アタシたちは物陰から出て来た。
 
 
「もー、息をひそめてなんて長時間やるもんじゃないわよ……さっきのあの人? どうかしたの?」
 
「う、うん……何回か今まであったことがあって、戦闘になったから……」
 
「危ないからかばってくれたの? ふふ、シャルってばいい子」
 
 
 おねーちゃんはアタシの頭に手を伸ばし、頭を撫でてくれた。
 おねーちゃん、優しくしてくれるのはうれしいんだけど……もうアタシ、子供じゃないんだけどなあ。
 
 
「でも、シャルも気をつけなさいよー。
ひとりで探索してるときとか……まあ今の様子ならだいじょうぶかな?」
 
「だ、だいじょうぶよぅ」
 
 
 ……あいつがここにいたってことは。
 この地下坑道にも、何かあるのかしら……もしかして、前とおなじ、武器の破片が……?
 
 調べてみたほうが、いいかもしれない……
 
 
 
 
 後日、アタシはひとりで地下坑道に再び来ていた。
 
 前に仮面の人物を見つけた地点のあたりを歩き回る。
 よく考えたら、あいつがいたってこと以外何のヒントもないじゃない……。
 あちこちを隅々探すのは……疲れちゃいそうだなあ。
 
 
「ん、お! 相棒ー!」
 
「んむ? あ、アフィンくん」
 
 
 声をかけられて顔を上げると、アフィンくんがいた。
 アフィンくんはこちらに駆けよってくる。
 
 
「こんなところに一人で何してんだ?」
 
「うん、ちょっと探し物してたの」
 
「探し物ー? なんだよ、それならおれも誘ってくれればよかったのに!」
 
 
 アフィンくんは少し拗ねたような調子で話す。
 前にあの仮面の人物と戦闘になったことが気がかりで、誰かを誘うって発想がなかったわ……。
 
 
「おれだって人探し中だから、探し物は得意なんだぜ?
まあ、おれの探し物は見つかってないけど……」
 
「でも、こないだ砂漠で探し物手伝ってくれた時はとっても助かったわ。
あの時は本当にありがとう、アフィンくん」
 
「へへ、どういたしまして―。
ここであったのも何かの縁だし、おれも付き合わせてくれよ、相棒」
 
 
 アフィンくんはにこにこと笑顔で提案してくる。
 ううん、これを断るのはなんだか悪い気がするなあ……それに、こないだ助けてもらったのは本当だ。
 アフィンくんは本当に探し物が得意なんだと思う。また、手伝ってもらおうかしら。
 
 
「うん、それじゃあまた一緒に行きましょ」
 
「そうこなくちゃな! で、なにを探すんだ?」
 
「えっと、なんて言えばいいのかしら……壊れた武器の、破片?」
 
 
 手をくるくると振り回しながら、何とか伝えようとする。
 アフィンくんは目を丸くして首をかしげる。
 
 
「壊れた武器……? そんなのそこらにゴロゴロあるだろ。
特別なのがあるのか?」
 
「うん、うまく言えないんだけど、こう……きらきらで、なんというか、こう!」
 
「ジェスチャー頑張ってるのはわかるんだけど……いいや、見つけりゃわかるだろ。
ものをさがすときは、ごちゃごちゃ考えず身体を動かすのが重要なんだぜ」
 
 
 なるほど。アフィンくんの言葉に、アタシは納得する。
 確かに、アタシ自身考えるのは苦手だし……動いた方が、見つけやすいかもしれない。
 
 
「ほら、行こうぜ相棒! ここ、機甲種が多いみたいだしな。
さっさと用事済ませちまおうぜ」
 
「うん、気を付けていきましょう。ここ、仕掛けとか多いし……」
 
「おう、相棒も気をつけろよー」
 
 
 アタシたちは先に進む。
 薄暗い地下坑道を、トラップに引っかからないように進むのは難しい。
 自分だけ怪我するならまだしも、アフィンくんを巻き込んじゃ大変だ。
 それに、気を付けるのはトラップだけじゃない。手ごわい機甲種もいっぱいいる。
 アタシもアフィンくんもレンジャーなので、弱点を狙いづらい機甲種相手は正直不利だ。
 
 
「あら? この壁……」
 
 
 しばらく進んだ後、アタシはふと足を止める。
 その壁は他の壁とはちがう様子だった。壁に張り付いた砂を払うと、そこには何か絵のようなものが刻まれていた。
 
 
「なんだそれ? 模様……いや、なんかの文字か?」
 
「文字、なの? でも、読めないわ」
 
「おれも読めないよ……資料とかでも見た覚えないし。
でも、なんか規則性あるように見えるけど……」
 
 
 確かに、いくつか同じ記号が刻まれている所がある。
 これにはちゃんと意味があるんだろう。でも、わからない文字を読むのは……できないなあ……。
 アタシとアフィンくんはじっと壁をにらむ。
 
 
「……りっ」
 
「え、相棒なんかいったか?」
 
「む? 何にも……って、わわ!」
 
 
 壁から視線をそらすと、もふもふが視界に飛び込む。
 驚いて飛び退くが、落ち着いてみるとそれはリリーパ族だった。
 
 
「あれ、こいつってこの惑星の……リリーパ族?」
 
「び、びっくりしたあ。ここにもいるのね」
 
「りりっ! ……りっ」
 
 
 リリーパ族は壁の記号を指さして、何か鳴き声を上げる。
 ……お話してるのかしら。アタシ達に何か言いたいのかしら?
 でも、リリーパ族の言葉も翻訳されていないからわからないのよね……
 
 リリーパ族はすたすたと歩いていき、瓦礫の山……その小さな隙間をくぐって、向こう側に行ってしまう。
 
 
「あ……行っちゃったぞ。相棒、どうする?」
 
「どうすると言われましてもぉ……」
 
 
 リリーパ族がくぐっていった穴はとてもアタシ達は通れる場所じゃない。
 かといって、瓦礫を登るのも危なそうだ。
 でも、瓦礫をどかすことができるわけじゃないし……
 
 あたりを見回す。瓦礫の先以外にも道はある。
 ここからじゃ見てわからないけれど……もしかして、回り道して追いつけないかしら。
 上がったり下がったりしてるし、なんとなくどこかで道が繋がってそう……。
 
 
「えっと、ちょっとあっちには行けないから……こっち、別の道行ってみましょ。
もしかしたら、またあの子に会えるかもしれないわ」
 
「あー、それもそうだな。じゃあこっち行くか」
 
 
 アタシたちは、瓦礫がないほうの道を進む。
 坂を登ったり下ったり、しばらく歩くがさっきのリリーパ族の姿は見当たらない。
 そのまま歩き続け、リリーパ族には会えないまま行き止まりの広間にたどり着いてしまった。
 
 しかし、その広間にはなぜかダーカーが集まっていた。
 
 
「うわ、ダーカーがいっぱいだわ……」
 
「でも、なんか様子がおかしくないか? 何か探してるみたいな……そんなダーカー、聞いたことないぞ」
 
 
 アフィンくんの言うとおり、ダーカーたちはあたりを探るように動き回っている。
 何か探してるみたいな……凍土でも、そんな感じだった。
 
 
「もしかしたら、ここに探し物があるかもだわっ」
 
「え、そうなのかぁ? ……まぁいいや、どちらにせよ放っておくわけにもいかないもんな!」
 
 
 アフィンくんはライフルを構え、こちらに目くばせする。
 
 
「やってやろうぜ、相棒!
あのデビュー戦のころとはちがうってところ、見せてやるよ!」
 
「うん、アタシもがんばるわ!」
 
 
 アタシもランチャーを構える。そして、二人で敵に向かって駆けだした。
 
 相手は大きな盾を持ったダーカーと、空を浮遊するダーカー。
 アフィンくんは浮遊しているダーカーを撃ち落し、地面に落ちたダーカーをアタシがランチャーで吹き飛ばす。
 アフィンくんはすぐさま盾を持ったダーカーに銃口を向ける。
 
 
「よっし、このまま……!」
 
 
 アフィンくんがそのまま引き金を引くも、銃弾はキィンと音を立てて盾に弾かれる。
 あの盾、銃弾貫通しないの!?
 
 
「え、あれ!? ……うわ、こっちきた!!」
 
「わ、アフィンくん走って走ってー!」
 
 
 盾を持ったダーカーが、盾を床に叩きつけながらこちらを追いかけてくる。
 アタシはアフィンくんと走りながら、床にトラップを仕掛ける。
 これ、タイミング合わせるの苦手なのよね……! 後ろを確認する隙もなく、慌てて起爆する。
 次の瞬間、爆音とともに背後のダーカーが宙に打ち上げられた。
 
 
「やった、成功したわっ!」
 
「仕掛けるなら先言ってくれよ相棒っ! でもこれなら防がれないな!」
 
 
 アフィンくんとアタシはすぐさま振り返り、ダーカーのコアに向けて銃弾を放つ。
 盾に防がれることなくむき出しのコアに、銃弾が命中し、炸裂する。
 そのままダーカーの身体は四散した。
 
 
「よっし……これで全部か?」
 
「みたい……ありがとう、アフィンくん!」
 
「こっちこそ、さっきのトラップサンキュー。ビビったけど効果あったな。
それで、ここにお前の探し物があるのか?」
 
 
 アタシはきょろきょろと辺りを見回す。
 物が隠れてそうな場所というと、瓦礫の山、コンテナの中、くらいだろうか。
 本当にここにあるのか、という疑問はまああるのだけれど……
 
 
「わかんないけど、とりあえず探してみましょう!」
 
「おう、手伝うぜー」
 
 
 
 
 ……と、しばらく辺りを探してみたものの、それらしきものは何もなかった。
 アタシとアフィンくんは疲れ果て、壁にもたれかかって座り込む。
 
 
「み、見つかんなかった……ごめんなさいなの、アフィンくん」
 
「いやまあ、そういう時もあるって。
途中にあった変な模様もよくわからなかったし、どっちにしろなんだか中途半端な感じはするなあ」
 
「う、う〜ん……」
 
 
 そういえば、あのリリーパ族にも会えていない。
 きっとあの子は別の道に行っちゃって、合流もできなかったんだろう。
 
 
「まあ、無理は禁物。とりあえず今回は帰還しようぜ、相棒」
 
「う、うん……」
 
「そんな落ち込むなよー。もっといろいろ情報集めたほうが探しやすいだろうし、調べ物はまだ今度ってな。
また手伝えることあったら、手伝うからさ」
 
「……ありがとうなの、アフィンくん」
 
 
 ……情報かあ。気になることは、いろいろある。
 もっとちゃんと、調べないと。
 もう少しで、手が届きそうなんだから……
 
 
 
 
 
 
 
 
  あとがき
 地下坑道編です。
 あねうえあねうえしてるクラベルを描くのが好きです。シャルとほのぼのしてるところをもっと書きたいものです。
 というかレンジャーしかおらん戦闘描写きつすぎるが? しばらく続きます。
 



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