巻き戻る。
 
 
 
 
 アムドゥスキアでの、アキさんとライトくんが一緒の調査……の、「2回目」。
 とはいえ2回目というのはアタシが体験しているだけだ。
 
 前と同じように、アキさんが先に走って行って、ライトくんが謝って。
 この二人のこんな光景も、見慣れてきた気がする。
 
 
「ああ、シャルくん。一つ進言なんだが」
 
 
 ライトくんと話していたら、アキさんがこちらに戻ってきて話しかけてくる。
 
 
「んむ、何ですか?」
 
「私の指示に従って、ダーカーを殲滅していってくれないか?」
 
「……ダーカーをですか? 構いませんけど、どうかしたんですか?」
 
「データ……というにはあいまいだが、少しばかり気になっててね。なるだけ、我々の手で倒しておきたい。
まあ、戦場に置いて状況は常に変わる。最終的な判断はキミに任せるよ」
 
 
 ……それでなにか、変わるのだろうか。
 いや、ダーカーを倒すのは全く構わないんだけど。
 理由が気になるけど、尋ねても多分アタシにはわからないだろう。
 とりあえず、言われたとおりにしよう。
 
 
 アタシたちはダーカーを倒しながら先に進む。
 途中、アキさんもダーカーの反応を調べてダーカーの居場所を教えてくれた。
 倒せるなら倒せるだけ倒したほうがいい。
 
 
「やはり龍族は屈強だな……そして、それを平然と凌ぐキミも大したものだよ」
 
 
 『前』と同じように、アキさんが呟く。
 いや、『前』って知ってるのはアタシだけなんだけど。
 
 
「たいしたものなんかじゃないですよう、アタシも疲れちゃいました」
 
「そうかい? じゃあ休憩がてら龍族の話でもしようか。
昨今では敵愾心が強い彼らだが、昔はそうじゃなかったらしい。
アークスと龍族は、かねてより交流を持っていたのだよ。
言語の翻訳も終わっているし、話の通じるものだってそれなりにいるはずなんだがねえ」
 
 
 これも、『前』聞いた話。
 『前』は龍族さんとちゃんとお話できなかった……お話しようと思ったら、ものすごく怒らせてしまったけれど、今回こそは大丈夫だろうか。
 
 アキさんが顔を上げる。そこには、歩いていく龍族がいた。
 
 
「あ、龍族……」

「おや、おあつらえ向きに龍族ではないか。
君のような実力者が相対すると不意に襲い掛かってくるかもしれない。
まあここは、私に任せてくれたまえ」
 
「え、あ、はい」
 
 
 ……前はお話できなかった。今度は、できるかしら?
 龍族に近づいていくアキさんを見守る。ライトくんもアキさんを心配そうに見つめていた。
 
 ……あれ? でも、なんか、変だ。
 あの龍族に、違和感を感じる。前は……こんなに「強く」感じなかったのに。
 これ、なんだかまるで……
 
 
「やあ、龍族のキミ。私の名はアキという。よければ少し話でもしないか?」
 
 
 アキさんは気さくに龍族に話しかける。
 しかし、龍族はこちらをにらみつけてきた。
 これ、前より明らかに……敵対してる?
 
 いきなり、頭の中に吼えるような声が響く。
 これ、龍族の声? だけど、翻訳されてるって話だし前は言葉が聞こえたのに……
 
 
「うん、なんだ? 頭に直接聞こえてくるような……もしや、これが龍族の声かな?」
 
「せ、先生、先生〜っ! そんなこと考えてる場合じゃないですどう見ても友好的じゃありませんよ!?」
 
「わかってるようるさいね!」
 
「はわっ、えっと、すいませんアキさん、あの龍族、退治します!」
 
 
 アタシはライフルを構えて龍族の頭を撃ち抜く。
 しかし龍族はひるむことなくこちらに向かってくる。あれ、普通ならこのくらいで怯むのに!
 アキさんもライフルを構え、龍族に向かって銃を撃つ。しかし、やはりひるむ様子はない。
 らちが明かない。アタシは武器をランチャーに持ち替え、龍族に向かって撃ちこむ。爆風が龍族を吹き飛ばした。
 
 ライトくんがあわててアキさんに駆け寄る。
 
 
「だ、大丈夫ですか!?」
 
「私は平気だよ。しかし、今のは……」
 
 
 アキさんは何か考え込みながら歩き出していく。
 ライトくんもあわててそれを追いかけた。
 
 アタシも、歩きながら考えてみる。
 ……前は、確か龍族に無視された。でも、今回は明確に敵意を持って襲われた感じがする。
 アタシでもわかったさっき感じた違和感みたいなもの。もしかして、あれがその原因とか……?
 いや、それがなんなのかはわからないけれど……。
 
 あ、もしかしたらアキさんに話したらわかるかしら?
 アタシはそう思ってアキさんを追いかけた。
 
 
「アキさん、あの……うわわっ」
 
 
 アキさんに駆け寄ると、アキさんはしゃがみこんで何かを調べていた。
 覗き込むと、それはなにか肉塊のように見える。
 
 
「あ、アキさんなんですかそれ……」
 
「ああ、龍族の死体だったものみたいだ。原形をとどめていないがね……」
 
「うへぇ、気持ちわる……先生、よくそれを触れますね……」
 
「助手を名乗るものならわかりたまえ、私は生きる者の研究をするのが好きなのだ。
終わったものに興味はない。これはただの『もの』だ。触れない道理がない。……どれ、内臓は、と」
 
 
 アキさんは龍族の死体をまさぐりだす。
 う、死体をまじまじ見ることなんてあんまりないし、ちょっと嫌な感じだ。
 アタシはおずおずとライトくんの後ろに隠れる。
 
 
「うわ、シャルさん僕の後ろに隠れないでくださいよ!?」
 
「じっと見るのやだもんー……」
 
「僕もあんまり直視はしたくないんですけどね!? うわ、うわぁ……」
 
 
 ライトくんは怯えながらも、アキさんのしている作業をちらちらと見ている。
 アキさんはその様子をちらりと見て、作業の手を止めずに呆れたような溜息をついた。
 
 
「ライトくん、うるさいよ。興味あるのかないのかスタンスをはっきりさせたまえ」
 
「うっうぅ……」
 
 
 少しして、アキさんはふうと息をついて手を止める。
 
 
「やはり、予想通りか……っと、すまないねシャルくん」
 
「えっと、なにかわかったんですか?」
 
「あぁ、簡易的にだが、内部組織を調べた。間違いなくダーカーの浸食がある。
おそらく体内に蓄積したものだ」
 
「チクセキ」
 
 
 つい、聞き返す。
 確か、『前』にフォトン以外の方法でダーカーを倒すと残り滓が残るって話を聞いたような。
 でも、ダーカーの侵食があった……さっき感じた違和感って、これかしら?
 
 
「簡単に言えば、塵も積もれば山になってしまうということだよ。
まあ幸か不幸か、組織片は回収できた。これで研究は進むと思う。
だが、根本的なところは龍族と話ができなければ解決しないだろうな……」
 
 
 どうしたものか、と考え込むアキさん。
 
 ……調べることはできた。理由もわかった。あとはこれをお話すれば分かってもらえるかもしれない、かしら。
 このまま先に進めば、またあの大きな龍族と出会うのだろうか。そのときに、なにか……?
 
 
 アタシたちは先に進む。しかし、その道中もアキさんは時折何か考え込んでいるようだった。
 
 しばらく歩くと、広い場所に出た。
 そこにはやはりヴォル・ドラゴンがいた。しかし、その前には小さな龍族の姿もあった。
 ヴォル・ドラゴンはその小さな龍族に威嚇するように、唸り声を上げている。なんだか、『前』よりも違和感を……ダーカーの気配も強く感じる気がする。それがあるってわかってるせいだろうか。
 
 
〔ロガ様! 静まりください! なぜ暴れ なぜ戦うのです お答えください! ロガ様!〕
 
 
 小さな龍族は必死にヴォル・ドラゴンに声をかけているようだが、ヴォル・ドラゴンは答える様子はない。
 それどころか、急に咆哮を上げると龍族に向かって炎を吐き出した。龍族は炎を間一髪で避けた。
 ……龍族が攻撃した? しかも仲間を? アキさんは『前』、普通なら突然攻撃することはないって……
 
 
〔ぐっ……! ロガ様…… なぜなのです……!〕
 
「りゅ、龍族同士が争ってる? 喧嘩でしょうか……」
 
「その筋も否定はしないが、声を聞く限りそうではなさそうだよ? ……さて」
 
「はわ、アキさんあぶないです!」
 
 
 アキさんは武器も構えず、龍族たちに歩み寄る。
 そして龍族に向かって声を張り上げた。
 
 
「説得は無駄だよ、龍族のキミ。ダーカーの侵食を受けて正気でいられるはずがない」
 
〔……アークスか〕
 
 
 小さな龍族がこちらに気づき、こちらの方を向く。
 しかし声からはなんだか冷たい雰囲気を感じた。
 
 
〔今、貴様たちにかまっている暇はない 去れ!〕
 
「ほ、ほらー! 龍族さんのおっしゃる通り帰りましょうって! 危ないですよほらぁ!」
 
「うるさいねえライト君。もう君は黙っていたまえ!
龍族のキミ。そうは言うが、目の前のあれをどうするつもりだい?」
 
 
 アキさんは龍族に冷静に尋ねる。
 龍族は一瞬迷ったようなそぶりを見せた。
 
 
〔ヒ族のロガ様は 我らが標 だが……同族を侵す 著しい 掟の侵犯
掟を破りしもの 悉くカッシーナの元へ……〕
 
「……?? えっと、つまりどういうこと?
掟を破ったから……かっしーなってナニ?」
 
「カッシーナとは龍族に伝わる神話の地獄龍のことだね。
つまりは……殺すってことか」
 
〔……賢しいアークス なにを考えている〕
 
 
 龍族は尋ねてくる。アキさんは微笑み、胸を張った。
 
 
「任せろ、と言っているんだよ。
生きているものを見捨てるなんてもったいないこと、私にできるものか」
 
「ふえ……あれ、どうにかできるんですか!?」
 
「ああ。いいかいシャルくん、あの龍族ならフォトンの力で撃退すれば間に合うかもしれない。救えるかもしれないんだ」
 
 
 アキさんが話す。
 そういえば、ダーカーの因子を浄化できるのはアークスが扱えるフォトンだけ。
 フォトンの力なら、侵食もどうにかできる……?
 
 ふと、なにかが頭の中に浮かぶ。
 過去に感じた痛み。あの時の後悔。
 ……そして、今のアタシなら何かを救えるのかもしれないという、ほんの少しの期待。
 
 
「確証ではないけれど……やってみるだけの価値はある。協力してくれるかい?」
 
「……協力しますっ!」
 
「え、えええええ! 戦うんですか、大丈夫ですかあ!?」
 
「ライトくんは後ろにいるかい?」
 
「う、そういうわけにも……」
 
 
 ライトくんが焦り、言葉に詰まる。
 急に、ヴォルドラゴンが咆哮を上げた。その視線はこちらに向いている。
 
 
「向こうは待ってくれないようだよ?」
 
「わ、わかりました! お手伝いしますー!」
 
「アタシも……行きます!」
 
 
 『前』は助けられなかった。今度は、助けられるかもしれない!
 アタシはライフルを構え、相手に向かって駆け出した。
 
 ヴォル・ドラゴンは大きく頭を振り回す。アタシは地面を転がり、それをかわす。
 アタシはヴォル・ドラゴンの頭に赤く光る塊があるのをみつけた。
 ダーカーの強い気配、あそこが中心のように思える。
 
 
「アキさん、ヴォル・ドラゴンの頭に何かついてます!」
 
「ふむ、侵食核だね。侵食したダーカー因子が露出したものだ」
 
「じゃあ、アレを叩けば!」
 
 
 そうだ、とアキさんはうなずくとライフルに脆弱弾を装填する。
 アキさんは侵食核に狙いを定め、引き金を引く。
 銃弾が放たれるが、ヴォルドラゴンは翼をはためかせて空へ舞い上がり、銃弾が当たることはなかった。
 
 
「くっ、外したか……! 飛ばれたままじゃうまく弾を当てられないじゃないか」
 
「動きを止められれば当てられますか!?」
 
 
 ライトくんが一歩前に出て、杖を振るう。
 空を飛ぶヴォル・ドラゴンよりも高い高度から撃ち落された雷は、ヴォル・ドラゴンの翼を貫く。
 バチ、と大きな音がして、ヴォル・ドラゴンはふらりと地に落ちた。
 
 
「今だ!」
 
「追撃、しますっ!」
 
 
 アキさんが、ヴォル・ドラゴンの頭の侵食核に脆弱弾を撃ち込む。
 アタシは狙いを定め、一点にいくつも銃弾を放った。
 連弾はすべて命中し、ヴォル・ドラゴンは一瞬ひるんだ。しかし、すぐに顔を上げると腕を振るい、地面に腕を叩きつける。
 すると、まるで地震のように地面が揺れ出す。足元にひびが入る。
 
 
「危ない、かわすんだ!」
 
「はわあっ!?」
 
 
 足元から、マグマが噴出してくる。
 アタシは転がってそれを避ける。すぐ顔を上げると、目の前にはヴォル・ドラゴン。
 あ、避ける方向間違えた。
 
 ヴォル・ドラゴンはひっかくように腕を振り回してくる。
 アタシはとびのいてそれをかわす。連続で何度も攻撃してくるものだから、一気に距離が離せない。
 こうなったら……こっちからも接近戦してみるしかない!
 
 アタシはガンスラッシュを取り出し、構える。
 この武器、あんまり慣れてないんだけど……接近戦ならこれが一番向いてるはずだ。
 
 
「えええいっ!」
 
 
 アタシはガンスラッシュを大きく振り回し、侵食核に刃を叩きつける。
 一瞬光が閃いたと思うと、侵食核はヴォル・ドラゴンの頭から切り離された。そのまま宙を舞い、粒子となって消えていく。
 
 
「っ、たぁ!」
 
 
 ヴォル・ドラゴンが頭からその場に倒れ込む。
 嫌な気配……ダーカー因子が消えたのがわかる。
 
 
「アキさん、これでいいかしらっ?」
 
「ああ、ばっちりだ!」
 
 
 ヴォル・ドラゴンを見るとまだ息があるようだった。
 よかった、助けられた!
 
 
[……ぐ これ、は……]
 
[ロガ様! 正気に戻られましたか!]
 
 
 ヴォル・ドラゴンはよろめきつつ起き上がる。
 小さな龍族はうれしそうな声をあげ、ヴォル・ドラゴンに駆け寄った。
 
 
「賭けではあったが、うまくいったな。
龍族の肉体が頑強なことを誇りたまえ、対処が早かったのもよかったと見える」
 
[賢しいアークス なにをした]
 
「簡単な話だよ、龍族。内部にいたダーカーの組織をフォトンが滅したのさ。
もっとも、大半は私ではなく、シャルくんのおかげだけどね」
 
 
 アキさんが龍族に話す。
 あれ、これってアタシのおかげになる、のかしら。
 ……でも、ちょっとうれしいな。今度は、助けられた。
 
 
「怪我は如何ともしがたいが、それはまあ、龍族は治癒も早い。時間が勝手に癒すだろう」
 
[……アークスの力か]
 
 
 龍族はどこか安心したように見えた。
 その様子を見て、アキさんは微笑んだ。
 
 
「おっと、龍族のキミ。安心するのはまだ早い。これはただの始まりだぞ?
これからも同じようになる龍族は増えていくだろうしね」
 
[……我らに 何を求める?]
 
「話をさせてほしいんだ。龍族とアークスの間に必要なのは対話だ」
 
 
 アキさんは龍族をしっかりと見据えて話す。
 龍族はあたしたちの顔をじっと見た後、少し考え込んだようだった。
 そして、顔を上げる。
 
 
[……わが名は ヒのエン
名を聞こう アークス]
 
「私の名前はアキ。助手のライトに……」
 
「あ、えっと、シャルです!」
 
 
 アタシは手を伸ばし、名前を名乗る。
 
 
[アークスの子、シャル 無礼を詫びる
そして 感謝を ロガ様を 救いし力 その恩を 忘れはしない]
 
「……うん、どういたしましてなの!」
 
 
 
 
 これから、アークスと龍族の交流が始まっていくんだろう。
 アタシはアキさんと一緒に、ひとあし先に龍族のおともだちができちゃった。
 
 それってすっごく、素敵なことよね。
 これから、どうなるのかしら。
 
 
 
 
 
 
 
  あとがき
 龍族のお話、完了です。
 そういえばそろそろシャルにいろんな武器を使わせています。
 いろんな武器でちゃんと戦闘描写ができるようになりたいです。いや本当戦闘描写苦手マンすぎて……
 



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