惑星アムドゥスキア、火山洞窟。
 アキさんに言われたとおりに向かうと、アキさんとライトくんがそこにいた。
 
 
「よく来てくれたね、待ってたよ。目的は言わずともわかるだろう?」
 
「んむ、ええと……」
 
「ああいや、失礼。君は私が見込んだアークスだ。この質問自体が無礼に当たるな」
 
 
 答えようとしたけれど、アキさんがそれを遮る。
 
 
「さあ、行こうではないか諸君。こうしている間も、私の知的探求心がうずいて止まらないのだよ」
 
 
 アキさんはそう楽しそうに言って先に歩いて行ってしまう。
 ライトくんは困ったような表情でそれを見つめるが、こちらに向き直る。
 
 
「すみません、ろくな説明もナシで……」
 
「ううん、だいじょうぶよ。とりあえずすることって、龍族の調査よね?」
 
「はい、今日は……いえ、今日もよろしくお願いします」
 
「うん、ライトくんもよろしくね」
 
 
 
 
 襲い掛かってくる龍族を倒しながら、先に進む。
 ライトくんはテクニックも使えるらしく、サポートしてくれている。
 
 
「やはり龍族は屈強だな……そして、それを平然と凌ぐキミも大したものだよ」
 
「んむ、アタシ、アークスになったばかりですよぅ」
 
「おやおや、謙遜かい?
とはいえ、昨今の龍族はいささかアークスの敵愾心が強いな。
昔はここまでではなかったと聞く。アークスと龍族は、かねてより交流を持っていたのだよ」
 
「交流……? 仲が良かったってことですか?」
 
 
 アタシが尋ねると、アキさんはうなずく。
 
 
「言語の翻訳も終わっているし、話の通じるものだってそれなりにいるはずなんだがねえ」
 
「龍族とお話……」
 
 
 それって、なんだかすごそう。
 今までは襲われてばかりでお話なんかできなかったけれど、お話できるのならしてみたい。
 どんなお話ができるのかしら?
 
 アキさんは顔を上げると、何かを見据える。視線の先には、龍族が一体いた。
 
 
「おや、おあつらえ向きに龍族ではないか」
 
「はわ、お話、お話できるんですかっ!」
 
「待て待て、君のような実力者が相対すると不意に襲い掛かってくるかもしれない。
まあここは、私に任せてくれたまえ」
 
 
 アキさんは微笑んでそういうと、龍族に向かって手を振り、話しかける。
 
 
「やあ、龍族のキミ。私の名はアキという。よければ少し話でもしないか?」
 
 
 アキさんの言葉を聞いた龍族はこちらを一瞥するが、どこかに行ってしまう。
 あれ、お話は……? 聞こえていなかったのかな。
 アキさんはそれを見て何か考え込む。
 
 
「……これが俗にいう、無視というやつだな。なるほど、なかなかに腹が立つ」
 
 
 アキさんは少し不機嫌そうにつぶやくが、すぐに笑みを浮かべる。
 
 
「ふふ、ますますもって交流したくなったぞ龍族!
待っていろ! この私を龍族にとって無視しがたい存在へと昇華させてやる!」
 
 
 アキさんは笑いながら声を張り上げると、先に走って行ってしまった。
 ライトくんは慌てて引き留めようとするが、アキさんは聞かない。
 
 
「ああ、行ってしまいました……それにしても、今の龍族さんは襲ってきませんでしたね。どうしてなんでしょう」
 
「そういえば、ここまでくるときには龍族に襲われたけど……」
 
 
 ふと考え込む。何か違いがあっただろうか……
 違いがあったとしたら、このあたり、ダーカーが少し多くいたことと……
 
 
「……なんとなく、だけど、纏っている空気が違ったような気がするわ。
それがてきがいしん、っていうものなのかしら?」
 
「うーん……僕にはちょっとわからないですね。
って、話してるうちに先生が! 追いかけましょう!」
 
「あ、うん!」
 
 
 アタシとライトくんは、慌ててアキさんを追いかける。
 龍族やダーカーを倒しながら、先に走る。
 
 やっとアキさんに追いついたと思ったら、アキさんは立ち止まっていた。
 何か考え事をしているようだ。
 
 
「アキさん、追いついた―! どうしたんですか?」
 
「いや、ダーカーの数が若干多い気がしてな。これはあまりよくない傾向だ」
 
「先生、龍族ってたしか独自にダーカーを撃退できるんですよね」
 
 
 ライトくんがアキさんに尋ねる。
 アキさんはそれにうなずく。たしかに、龍族ってけっこう頑丈みたいだけど。
 
 
「そうさ、だからこそアークスは不要という方針を打ち立てているらしい。
私としては、それは危険だと進言したいんだがね……」
 
「えっと、その、ダーカーはフォトンでしか……アークスしか倒せないんじゃないんですか?」
 
「ああ。龍族がその屈強な力で撃退しても、ダーカーは完全には消滅しない。
残り滓のようなものが残留するはずだ」
 
 
 ……一瞬、昔を思い出しかけるが振り払う。
 フォトンじゃないと、ダーカーは完全には倒せない。教わったことだ。
 
 
「私はそこにこそ、龍族が豹変する原因があるとみているのだがね……協力がなければ、詳しく調べられもしない。
だからこうして、フィールドワークで地道に調査していくしかないのさ」
 
 
 龍族が豹変……ふと、この間のリリーパでの出来事を思い出す。
 ダーカーに侵食されて、狂うかもしれないということ。
 それってもしかして、龍族にも……?
 
 
 
 
 奥に進むと、開けた場所に出た。これまでの道は岩や溶岩が多かったが、ここにはそれもほとんどない。
 そこには巨大な龍族がいた。あれは知ってる。ヴォル・ドラゴンだ。
 ヴォル・ドラゴンはこちらに気づき、戦闘態勢をとろうとしている。
 ……お話、できそう? これ、敵対してるというか……無理じゃないかしら?
 
 
「龍族は、人を越える知能を持つと言われているが……
あれを見ていると、とても知恵あるものの振る舞いには見えないな」
 
「ええと、よくわかんないけど……その、怒っているように見えます」
 
「確かに憤怒のご様子だ。しかし、何に対して怒っているのかがわからないな。
怒っている……のだろうか。怒ることしか、できないのだろうか」
 
「え、怒ってるからこっちに襲い掛かって……?」
 
「ちょっと、お二人とも! 話している場合じゃないですよ!
きます、きますってば!」
 
 
 ライト君が慌てて声を上げる。
 そうだ、目の前にいるんだった!
 
 ヴォル・ドラゴンは急に炎のブレスを吐いてくる。
 アタシはあわてて射線上から逃げる。
 直撃しても服や防具のフォトンコートのおかげでほとんどの場合は熱いだけとはいえ、ダメージにはなる。
 
 これは話とかできそうもない。こうなったら、もう……
 アタシはライフルを構える。
 
 
「アキさん、ごめんなさい! このヴォル・ドラゴン、倒さないとだめかも……」
 
「そうかもしれないね……少なくとも、今のままじゃ話はできなさそうだ。
すこし落ち着いてもらわないといけないね」
 
 
 ヴォル・ドラゴンはぶんと尻尾を振り回す。
 アタシはそれを避けると脆弱弾をライフルに装填する。そしてヴォル・ドラゴンの尻尾にある結晶に向かって撃ちこんだ。
 とげとげした結晶、あんなの当たったらものすごく痛いもの。そして多分、壊せないものじゃないはず。
 
 
「まずあの尻尾の結晶を壊します!」
 
「なら集中攻撃したほうがいいかい? ライトくんも協力、よろしく頼むよ」
 
「わ、わかりました! ――ゾンデ!」
 
 
 ライトくんが杖を構え、テクニックを放つ。
 落雷はまっすぐ結晶に向かって落ちるが、ほとんど傷つかない。
 
 
「ふむ、ライトくんの雷属性のテクニックはあまり効かないみたいだね」
 
「そ、そんなぁ……」
 
「ライトくんは補助に回っててくれ。わたしとシャルくんがなんとかしようじゃないか」
 
「うえ、アタシもあんまり自信はないんですけどっ」
 
「なーに、キミの腕前は低くないと思うよ。とにかく攻撃しようか」
 
 
 アキさんがライフルを構え、銃弾を放つ。
 放たれた銃弾は結晶には直撃しなかったものの、尻尾に当たり炸裂する。
 アタシも結晶を狙うが、ヴォル・ドラゴンが急にジャンプする。
 こちらに向かって飛び落ちてくるが、アタシは飛びのく……が、着地した時の衝撃と翼によって煽られた風で吹き飛ばされてしまう。
 
 
「うわぅ!」  
「うわ、シャルさん!? 大丈夫ですか!?」
 
「大丈夫だけど……んむぅぅ、おっきいのにいっぱい動いて狙いづらいの!!」
 
 
 アタシは武器をライフルからランチャーに持ち替える。
 こっちのほうが当たるかもしれない!
 
 
「こっの、当たれー!」
 
「な、シャルくん、それじゃ狙いが……!」
 
「大丈夫、です!」
 
 
 アタシは空中に向かって弾を撃つ。
 弾はヴォルドラゴンの頭上で炸裂するとヴォル・ドラゴンの足元にばらばらと落ちて爆発を起こした。
 ヴォル・ドラゴンは一瞬ひるむ。そして、わずかに尻尾の結晶にひびが入ったのが見えた。
 
 
「っ、今なら結晶、壊せそう!」
 
「それじゃあ集中して攻撃しようか!」
 
「ぼ、ぼくもいきます!」
 
 
 アタシとアキさんはライフルを構え、結晶に向かって銃弾を撃ち込む。ライトくんも杖を振るい、雷の法撃を放つ。
 銃弾と雷撃が爆発を起こし、結晶が砕け散る。
 ヴォルドラゴンは咆哮を上げ、体勢を崩し、地に倒れ伏す。
 よかった……助かった。
 
 
「お、落ち着いた……かな」
 
「どうやらそのようだね」
 
「結晶を壊したのがダメージになったのかしら……?」
 
 
 この後どうしよう、と考えていたら、小さな龍族がヴォル・ドラゴンに駆け寄る。
 そして、こちらを一瞥する。
 
 
〔遅かったか〕
 
 
 頭の中に、つぶやくような声が響く。
 これ、あの龍族の声?
 アキさんもそれに気づいたらしく、視線を向ける。
 
 
「キミ、私たちの言葉を介する龍族か……。
わざわざコンタクトをとってくれたということは、私の話も聞いてくれるのかな?」
 
〔断る 早々に去れ、アークス 貴様たちと 交わす言葉はない〕
 
 
 ……淡々とした調子で言われるけれど、言葉の意味を考えると怒っているように聞こえる。
 
 
「……君の同胞と戦わねばならなかったことは謝罪する。
だが、それほどの知性があるのなら、君もこの状況のおかしさに気付いているはずだ。
君のように、正常な状態の龍族ならば無警告で襲い掛かってきたりはしない。そうだろう?」
 
〔……下らん言葉遊びに つきあうつもりはない〕
 
 
 アキさんの問いも冷たくあしらい、その龍族は立ち去ってしまう。
 アキさんは引き留めようとするが、龍族はいなくなってしまった。
 
 
「……その、アキさん。あの龍族さん、たぶん本当に怒ってます。だから……」
 
「ああ、シャルくん。わかっているとも、ここが限度だ。
キミの言うとおりだな……戻ろう」
 
 
 ……龍族と仲良くなることはできないんだろうか。
 ダーカーの影響を受けておかしくなった龍族を倒すこと。
 多分、他の龍族から見たら、許せないというものもいるんだろう。仲間を倒されてるんだもの。
 
 じゃあ、ダーカーの影響を龍族に説明できればいいのかしら……?
 
 
 
 
 
 
 
  あとがき
 龍族のお話です。
 戦闘描写グエェってなりました。現環境だとヴォルドラゴンと長々戦闘することってないんで……初心、大事にしたい。
 正直まだEP1序盤も序盤なのに、この程度でグエェしてて大丈夫なんでしょうか。
 



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