ある日、ロジオさんから連絡があった。
 
 
『シャルさん、先日調査していただいたナベリウスの地質の件についてなのですが』
 
「んむぅ、どうしたのかしら?」
 
『分析を続けていたのですが……異常さが見えてきます。
まず、あの惑星は森林部の地質が基礎となっています。凍土は、後に生まれた地形です。
しかし、凍土が産まれた原因……普通なら隕石落下や異常気象などですが……その痕跡が見当たらないのです』
 
 
 ロジオさんは話す。
 ……少し難しい話だ。それはつまり、どういうことかしら?
 少し、考え込む。
 
 
「ええと、普通ならあるはずの凍土になった原因が見つからないってことよね?」
 
『はい。……さらに、凍土の中でもデータのばらつきがあり、パラメータが取得できていない場所もありました。
まるでジャミングでもされているかのように……』
 
「んむぅ、ジャミング……? ほんとうだとしたら、なんでそんなことがあるの?」
 
『わかりません。だから、これはもはや推論ではありません。あの惑星は、なにかがおかしいです』
 
 
 ……ロジオさんの言ったことが本当なら、なんでジャミングされてるのか、わからない。
 それに、ナベリウスって何もわからないんじゃ……?
 
 
『ナベリウスは未開の原始惑星と聞かされてきました。しかし、これは、このデータは……』
 
「……ロジオさん?」
 
『……私は今度、許可を得て直接調査に行こうと思っています』
 
「ふえっ!? それ、あぶないわよぅ! ダーカーもいるかもしれないし……」
 
『危険は百も承知です。
ただ、ここまでの調査結果を他ならないあなただけにはお伝えしておきたくて……』
 
 
 静かに話すロジオさん。
 ……教えてもらったのは嬉しいけれど、でも、調査に行くっていう話は不安になる。
 ただでさえ、ナベリウスは危ないのに。
 
 
「わ、わかったわ……でも、本当に気をつけてね! お手伝いできることがあったら、アタシまたお手伝いするから!」
 
『ありがとうございます。ロビーには顔を出すようにします。また、会いましょう』
 
 
 ロジオさんはそう言って通信を切ってしまった。
 ……本当に、だいじょうぶなのだろうか。
 すごく、すごく不安だけれど、難しいことはわからないから、お手伝いできることはあまりないかもしれない。
 何もないといいんだけど……
 
 
 
 
 メディカルセンターの前に立ち寄ると、マトイちゃんはまたあたりをきょろきょろと見回していた。
 アタシはマトイちゃんに駆け寄る。
 
 
「あれ、マトイちゃん。なにしてるの?」
 
「あ、ごめん。あっちこっち見てて……。
みんなにとっては普通に見えるものも、わたしにとっては新しいものだから、なんかすごくワクワクするの」
 
 
 マトイちゃんはそう言ってほほ笑む。
 
 
「ロビーにあるモニターとか、最初はすごくびっくりしたよ。何かが壁の中で動いてる! って」
 
「あ、わかる〜! アタシもモニターを初めて見たときは驚いたわあ」
 
「シャルも、なの? そうなんだ……いろいろ忘れちゃってるのは不便でもあるけど、当たり前が新しいことになるのは楽しいな」
 
 
 ……そうか。マトイちゃんは、もしかしたら知ってたかもしれないことも、今は知らないんだ。
 だから、普通なら当たり前のことも初めてに思える。
 
 ……「普通なら」、当たり前……。
 
 
「あ、も、もちろん思い出す努力もしてるよ、忘れてないよ?
ただ、忘れることは悪いことばかりじゃないなあって思っただけ。うん」
 
「たしかにそうかもしれないわね。楽しいことがあったのならよかったわ」
 
「うん、見慣れないものを見るのは楽しいよ」
 
 
 マトイちゃんはそう言って笑う。
 
 
「シャルも、そういう経験があったの?
さっきモニターを初めて見たときのこと、話してたけど」
 
「んむ? うん、そうよ。
アタシが小さいころは、周りにあまり外の物……たとえばモニターとか、そういうものがなかったから……」
 
「え、そうなの? 小さいころはあまり見ないものかな?
ええと、市街地とかにはないの?」
 
「市街地にはあった気がするけど、その……アタシ、外にあまり出れなかったから」
 
 
 ……嘘はついてない。
 小さい頃、そばにあったのはいくつかの本だけ。
 外のことは、何も知らなかった。外の世界の存在を知らなかった、とすら言えるかもしれない。
 
 マトイちゃんは「覚えていたかもしれないことを忘れている」から、「最初何も知らなかった」アタシとは違うんだけど……。
 でも、知らないものを見てわくわくする気持ちは、きっとおんなじなはずだ。
 
 マトイちゃんはすこし不思議そうな顔をしたあと、どうしてかうつむいてしまう。
 
 
「……悪いこと、聞いちゃったかな」
 
「む、そんなことないわよ? 悪いことってアタシは思ってないし。
それに、マトイちゃんとおんなじで、今いろんなものを見れるのはすごく楽しいのよ。
マトイちゃんとお話するのも、マトイちゃんとお話することを外で探すのも、楽しいわ」
 
「……本当?」
 
「ほんとよ!」
 
 
 アタシはマトイちゃんの手を握る。
 マトイちゃんは一瞬驚いたようで、目を丸くしてアタシを見た。
 
 
「でも本当は、お話するだけじゃなくて外のものをいっぱい見せてあげたいの。
いつか、いっしょにお出かけしましょ! 惑星はさすがに危なくて難しいかもだけど……市街地とかなら、行けるかもしれないわ?」
 
「お出かけ……ふふ、楽しそうだね! フィリアさんに頼んでみようかなあ」
 
 
 マトイちゃんはうれしそうに笑うけど、「怒られそうな気がするなあ」と苦笑した。
 たしかに、さすがにいますぐにっていうのは無理だろうし、そこまでは考えていない。
 頭痛のこともあるし、マトイちゃんの体のこと、心配だしね。ちゃんと元気になったことがわかってからだ。
 
 
「うーん、じゃあお出かけできるようになるまではアタシがいっぱいお話するわ!
いっぱい、素敵なものを見つけてくるわね」
 
「うん、ありがとう、シャル」
 
「どういたしまして! アタシも楽しいわ。
でもいつか、一緒にお出かけしましょ! 一緒に行きたいところ、考えておくわ!」
 
「うん、いつか、だね」
 
 
 アタシたちは笑う。
 
 
 
 
 マトイちゃんとお話した後、ロビーを歩き回っていると通信が入ってきた。
 アキさんからの通信だ。
 
 
『やあ、シャルくん。先日はいろいろと迷惑をかけたね。
おかげで研究も進んでいるよ』
 
「そっかあ、お手伝いできたならよかったですー!」
 
『ああ、あとは決定的なデータだけだ。で、その研究のことで折り入って相談がある』
 
 
 少し真剣そうなアキさんの声。
 思わず首をかしげる。相談ってなんだろう。
 
 
『君の都合がつくときに、火山洞窟で落ち合いたい。
目的は言わなくてもわかるだろう? 君ならばわかってくれるはずだ』
 
「……はわ?」
 
『では、よろしく頼むよ』
 
 
 そう言ってアキさんは通信を切ってしまう。
 ……火山洞窟で合流? もしかして、また研究のお手伝いかしら。
 でも今回はアタシが調査するんじゃなくて、アキさんも来るのよね。
 どんなことになるんだろう……
 
 
 
 
 
 
 
  あとがき
 隙あらば主マト挟む〜〜〜〜〜〜〜
 クエストになってるところとなってないところの接続、本当に難しくて悩みます。
 次回は進展します。します?
 



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