アムドゥスキア、火山洞窟。
巨大な龍族……ヴォル・ドラゴンの吐く炎が、ダーカーの群れを焼き払う。
ダーカーは炎に焼かれ、消滅していった。
「うひゃう……」
岩陰から、その光景を見守る。
アタシはアキさん(……とライトくん)に頼まれて、龍族の調査に来ていた。
アキさんは実地調査をする気満々だったみたいだけど、前のこともあってライトくんに厳しく止められたらしい。
そういうわけで、アタシが代わりに龍族の生態を調べることになったのだ。
……アキさんからは、ダーカーとの交戦を主にと言われたので、今龍族とダーカーが戦っているのが見れたのはラッキーだったかもしれない。
あれ、でもダーカーってアークスのフォトンでしか倒せないって聞いたような……あの龍族は大丈夫なんだろうか。
アタシは物陰から恐る恐る出て、ヴォル・ドラゴンに近づく。
と、ヴォル・ドラゴンがこちらをちらりと見てくる。
うげ、気付かれた。
『……』
ヴォル・ドラゴンは一瞬だけアタシを見ると、飛び去って行ってしまった。
ん、むぅ……見つかったの、だいじょうぶかしら。
データはとれたと思うんだけど……うっかりあとで鉢合わせたりしたら嫌ね……
とりあえず、もう少しだけ探索していこうかしら。
……あのヴォル・ドラゴンの行った方向は避けよう。大きいの怖い。
アタシは火山洞窟の中を歩いていく。
ここには何回か来たけど、ダーカーも多いし龍族も襲い掛かってくるしで探索するのは大変な場所だ。
マグマで照らされてるけど薄暗いこともあって、周りもわかりづらい。
アキさんはここによく来てたのよね、すごいわあ……。
ふと、遠くに人影を見つける。薄い色の金髪のニューマン、テオドールくんだ。
アタシはテオドールくんに駆け寄る。
「おーい、テオドールくーん!」
「あ、こんにちは」
軽く頭を下げるテオドールくん。なんだか今日は少し表情が明るいのがわかる。
「あら、今日は元気そうね?」
「はい、余力が残っている感じです。何分、戦っているふりをするのがうまくなってきましたから」
「んむ……ふり?」
「はい、必要最低限と言いますか……求められたこと以外はしないようにするだけで、楽になってきました」
そう言って微笑むテオドールくん。
うん、やっぱり前に比べてずっと元気そうだ。
「それはよかったわー。んんと、今までは頑張りすぎてたってことよね?」
「あはは、もしかしたらそうかもしれません。
こんなこと、真面目にやっている人に言うとすごく怒られそうですけどね……でも、ぼくはそういう性格ですから」
ふと、頭の中にルクスくんの顔が浮かぶ。戦ってる時にちょっと邪魔しちゃうと怒ってくるルクスくんだと……怒りそうだわ。
でも、うん。出来ないことを無理にして疲れちゃうのも、しんどいわよね。
「アークス以外のことができない以上、アークスの中で出来る最低限を粛々とこなしていく……楽しいとかそういうのは、みじんもないです。これは、任務ですから」
「……? ん、むぅ、そうなんだ」
……アタシは、外を見るのが楽しいけれど。アークスになれてよかったと思うけれど。
それが……アークスであることがテオドールくんには、すごくしんどいんだろうな……
「彼女にこんなこと言ったら、めちゃくちゃに怒られそうですけどね。もっとまじめにやれって。
そんなこと言われても才能以上に、性格の向き不向きがあるんだから、仕方ないですよ……」
「……んむぅ」
言葉に詰まる。なんていえばいいかわからなくて。
「すいません、また愚痴ってしまいましたね。まあ、できる範囲で頑張ります」
「う、うん。気を付けてね」
シップに戻り、アキさんに集めたデータを渡す。
アキさんは大喜びで、またお願いしたいとか言われてしまった。
ライトくんは、やっぱりあきれ顔だったけれど。
用事を終えてショップエリアを歩き回っていると、元気がなさそうなウルクちゃんを見つけた。
ウルクちゃんとは何かとお話する。なんでも、アークスになれないけど職員になるのを目指したらしい。
そっちも相当難しいらしい、と話してたけれど……。
「ウルクちゃーん、こんにちはー」
「あ、こんちはっす」
「元気ないけど、どうしたの?お疲れ?」
「あー……うん、今日はちょっと。
関連職員であっても、フォトンの才能がないメンバーはきついって」
「え、そうなの?」
「うん、いざという時緊急招集されるのがアークス職員の務めでさ。予備役みたいな?
だから、戦う才能がみじんもない人はちょーっと厳しいかもって言われちゃったのさ」
ウルクちゃんは笑って言うけれど、それって悲しいことのはずだ。
アークスになりたいって思ってなれなかったから、少しでも近づく道をウルクちゃんなりに考えてるのに。
というか、アークスの職員になるっていうのも、大変なのね……。
「……正直、堪えるわよね。せっかく目標見え始めたのに、また同じ理由で閉ざされるなんて」
ウルクちゃんの表情が一瞬曇る。けれど、ウルクちゃんは顔を上げ、また明るい表情になった。
「いや、まだだよね。なるのが厳しいってだけで、まだ駄目だったってわけじゃないんだし。
うん、そーだよ。諦めるにはまだ早いっ!」
「え、ウルクちゃん、だいじょうぶなの? 無理してない?」
「大丈夫大丈夫。わたしがこんなふうにやる気なくしたらこれっぽっちも示しがつかないもんね、うん!
最後まであきらめないこと、わたしにできるのはそれだけ!」
ウルクちゃんはそう言ってまた笑う。
……すごいな、と思った。無理かもしれないっていうほうが大きいはずなのに、諦めないウルクちゃんが、すごいって思った。
「……なんか、そんなにがんばってるウルクちゃんならできるんじゃないかしらって思うわ。
うん、アタシも応援する! 応援しかできないけど……」
「あはは、ありがとー。うん、がんばってみるよ!」
ウルクちゃんは、明るく笑う。
そういえば、とおもいアタシはジグさんのところを尋ねる。
前に預けた武器のことがどうなったか気になったのだ。
「ジグさんー、こんにちは」
「ああ、シャルか。ちょうどいいところに来てくれた。先日預かった武器について話があるんじゃが」
「話、ですか? んむ、何かあったんです?」
アタシが聞き返すと、ジグさんはうなずいた。
「あの壊れた武器なのだが、調べてみるとあれでもまだ一部分の様なのだ。
つまり、同じような破損武器がどこかにあるはず……おそらくは、あと2個じゃな」
「む……他の部品もないと武器って直せないんですか?」
「修復形を予測して代用品での修繕も可能だとは思うんじゃが……それでは、あの武器の輝きが消えてしまいそうでの。
そこで、折り入っての頼みがある。残りの破損部分をみつけたら、持ってきてはくれまいか?」
「んむ、もちろん了解です! 見つけたら持ってきますね!」
武器が直ったところなんて、見てみたい。興味がある。
それに最初はアタシが頼んだことだ。お手伝いはしないと。
……でも、どうやって探せばいいんだろう。
ジグさんのところを離れ、ロビーを歩き回りながら考える。
誰か知ってる人とかいないかしら? ……さすがに無理かしら。
「お、ようシャル!」
「っ、わ、はわ、ゼノさん!」
ゼノさんに話しかけられ、アタシは慌てて顔を上げる。
「聞いたぜ、あのジグ爺さんにいろいろ無茶頼まれてるんだって?
あのじいさん、やる気を出すといつもあんな感じだから割と面倒なんだよなあ」
「ゆ、有名なんですね……」
「まあなあ、で、何をして来いっていわれてるんだ?」
ゼノさんに尋ねられる。そうだ、ゼノさんは前に武器の破片を見せていたから、少しうまく話できなくても伝わりそうかも。
アタシはジグさんから武器の破片を探すことをゼノさんに説明した。
「あー、前みつけたよくわからんアレ関連か。やっぱあれ、武器だったんだな」
「む、ゼノさん知ってたんですか?」
「いやいや、なんとなくそんな気がしただけだよ。
でもあれ関係のものを探すなら、ノーヒントってわけでもないんじゃないか?」
……え? アタシはつい首をかしげて考え込んでしまう。
ヒントって……手がかり、何かあったかしら?
「考えてもみろって。あれってダーカーが探してたみたいだし、あの仮面野郎も探してたんだろ?
逆に言えば、あいつらが探し回ってるところにそれがあるんじゃないか?」
「……あ、そっか。そうかもしれない、です!
じゃあなにかを探してるっぽいダーカーがいるあたりが怪しいわけですねっ」
そういうこと、とゼノさんがうなずく。
正直、あの仮面のひととはできれば出会いたくないけれど……あれを探すってことは出会っちゃうのかなあ。
「まあ、俺も何か見かけたら連絡してやるから、頑張ってみろよ。んじゃな!」
「はい、ありがとうございます、ゼノさんっ!」
アタシの思いつかないことに気付かせてくれた。
ゼノさんって本当、素敵な人だ。
うん、これから何をすればいいか、なんとなく見えてきた。
見えたなら、行動あるのみ!
あとがき
雑談回。
どうつなげるか悩むんですけど、会話劇を書くのは好きなので嫌いではないです。
つなげるところが無茶苦茶嫌いなだけです。
← * 戻る * →