『前』と同じように、フーリエちゃんと砂漠にやってきた。
 ただ、今回は前と違う。
 
 
「す、すみませんシャルさん。今って何時ですか?」
 
「んむ、8:00よ?」
 
 
 『今回』は、アタシから提案して朝早い時間に来た。
 普通ならもう少し遅い時間に任務に来るが、早い時間で来ることがだめというわけでもない。
 ……実はアタシは早起きが得意じゃないので、朝起きるのに苦労したのは内緒だけど……。
 
 
「そうそう、8:00でした! データ入力っと……。
それにしても、今日はずいぶん早い出発ですね」
 
「んむ、そうかしら? たまには、ね、うん」
 
「まだだれも来てないみたいですし……こういう早い時刻からの任務ってのも、なんだかいいですね」
 
「あ、えへ、でしょ? もしかしたらこの時間のほうが、あの子たちも見つかるかもしれないわ?」
 
 
 ……ちょっとだましてるみたい。
 でも、これで本当のことがわかるなら、行かないといけない。
 
 アタシたちは、砂漠を進んでいく。
 
 
 
 
「あ、シャルさん! あそこ、見てくださいっ!」
 
 
 砂漠を歩いていると、フーリエさんが声を上げる。
 フーリエさんが駆けて行った先には、ひどく壊された機甲種があった。
 前に見たのと同じ感じだ。やっぱり、やりすぎなくらい壊されてる。
 
 
「これ、戦闘の痕跡ですか……? 機甲種の残骸も、目も当てられないくらいボロボロ……」
 
「んむぅ……本当、ひどいわね」
 
「こんな戦い方をする人がアークスにいるのかと思うと……なんだか、怖いですね」
 
 
 フーリエちゃんはつぶやき、うつむいてしまう。
 
 
「……フーリエちゃん、だいじょうぶ?」
 
「あ、いえ、すいません。あの子たちのことを、ちょっと考えて……
リリーパって、機甲種とダーカー以外ほとんどいないじゃないですか。だからきっと、あの子たちにとって周りは全部敵だったんだろうなって」
 
 
 フーリエちゃんが悲しそうに話す。
 周りがぜんぶ敵……きっとそれは、怖いことなんだろう。
 
 
「そしてそれは、私たちアークスも例外じゃない……こんなに暴れまわってたら、怖がられて逃げられてもしょうがないですよね……」
 
「フーリエちゃん……」
 
「……っと、と! ごめんなさい、へこんでる場合じゃありませんでしたね」
 
 
 フーリエちゃんは顔を上げてほほ笑む。
 
 
「私たちは敵じゃないんだよ、ってあの子たちに教えてあげないと、交流も何もできませんね。
せっかく会えたのに、仲良くできないなんて悲しすぎますもんね……」
 
「……っ、きっと大丈夫よ! フーリエちゃんが悪いことしたわけじゃないもん。
そのこと、きっとあの子たちもわかってくれるはずだわ!」
 
「シャルさん……ありがとうございます」
 
 
 ……うまく励ませたかどうかわからない。
 でも、フーリエちゃんには元気でいてほしいなって思った。
 リリーパ族たちと仲良くなれるなら、それは悪いことじゃないはずだ。
 そして、フーリエちゃんは今そのために頑張ってる。頑張ってること、無駄にしちゃだめだわ。
 
 先に進もう。本当のことを知って、伝えるの。
 
 
 アタシたちはさらに進む。心なしか機甲種の残骸は進むごとに増えているように感じる。
 しばらく歩いていたら、金属がぶつかるような、何かが壊れるような音が聞こえてきた。
 
 
「……なんでしょう、この音。剣劇の音……?」
 
「んむ、誰かが戦っているのかしら……」
 
「こんな時間に……? シャルさん、行ってみましょう」
 
 
 アタシたちは走り出す。
 
 
「おらおらどうしたァ! 機械の体はもっと丈夫なはずだろ? つまんねえぞ、もっと気張れよ!」
 
 
 駆け付けた先には、機甲種を殴り壊すゲッテムさんと、それを見守るシーナさんがいた。
 う、あんまし会いたくない人に出会っちゃったかも。
 少し離れた草陰には、リリーパ族が数匹群れて震えていた。
 フーリエちゃんはその光景を見て愕然とする。
 
 
「な……ひどい……」
 
「あ? なんだぁ、お前ら」
 
 
 ゲッテムさんはこちらに気づき、振り向く。シーナさんもこちらを見る。
 
 
「悪いが、ここはオレの遊び場だ。譲ってやる気はねぇぞ?」
 
「あ、遊び場って……」
 
「んん? ちょっとまて……そっちのキャストの女はともかく、オマエは見たことあるよなぁ?」
 
 
 ゲッテムさんがこちらを見てくる。う、思い出された。
 
 
「ナベリウスで出会ったシャル様です、ゲッテムハルト様」
 
「ああ、あの時のやつか……いけねえいけねえ、獲物の名前ぐらい覚えておかないとな。
それでオマエがここに来たってことはあのふざけた仮面野郎もきてんのか?」
 
 
 獲物って何よ、とか、なんであの仮面の人の話になるの、とかいろいろ言いたいことが思いつくが、一気に思いついたせいでうまく言えない。
 なにか言わないと、と思っていたら、フーリエちゃんが恐る恐る前に出た。
 
 
「……なんだよ、女。テメェに用はねえぞ?」
 
「ふ、フーリエちゃんっ! 待って……」
 
「……っ、こ、この付近で大暴れしているアークスはあなたですね!」
 
「大暴れェ?」
 
 
 フーリエちゃんが問い詰める。しかし、ゲッテムさんはそれを鼻で笑った。
 
 
「何言ってやがるんだテメェは。これがアークスとしての本分だろう。
惑星に降り立ち、敵を排除する。俺たちがやってるのはそういうことだぞ?」
 
「違います! わたしたちアークスは原生住民との交流を含めた……」
 
「だーかーらーよぉ! それが詭弁だっつってんだよ!
言葉も通じず、ダーカーの影響を受けてるかもしんねぇやつらと交流なんてできると思ってんのか?」
 
 
 大声で言い放つゲッテムさん。
 フーリエちゃんは言葉に詰まってしまう。
 ゲッテムさんはその様子を見て、ちらりとこちらを見る。
 
 
「なぁ、シャルよぉ。お前もそう思うだろ?」
 
「……っ、難しいことはわかんないわよ。
でも、あなたの言ってることよりは、フーリエちゃんの言うことのほうがわかるわっ」
 
 
 仲良くなれるかもしれない、そっちの方が明るい考えだ。
 敵になるかもしれない、と考えるよりは、そっちのほうがずっとうれしい。
 ……もし大事な人が敵になったら、とか、考えるよりは。
 
 ゲッテムさんはアタシの言葉を聞いて舌打ちをする。
 
 
「ちっ、いい子ちゃんが……まぁいい、どれだけ隠そうとしてもお前から感じる匂いは隠せねぇ」
 
「そういうのがわかんないって言ってるんだけど……あ」
 
 
 ふと、リリーパ族の一匹がフーリエちゃんの足元に寄ってくる。
 ゲッテムさんはそのリリーパ族をにらみつける。
 
 
「あァ……? なんだこのちっちぇーのは。じっと見てきやがって、気味悪ィな。
まぁいいや、どうせダーカーに影響されて俺たちを狙ってるんだろ?」
 
 
 ゲッテムさんはそう呟き攻撃の構えをとる。
 ゲッテムさん、まさか……!
 
 
「なら、ここで始末しておいてやらないとあとから来るアークスにも迷惑がかかっちまうなぁ!」
 
「っ、ダメっ!」
 
 
 リリーパ族に殴りかかろうとするゲッテムさんの前に、フーリエちゃんが飛び出す。
 フーリエちゃんはゲッテムさんの攻撃をまともに受けてしまい、その場にしゃがみこむ。
 
 
「……なに?」
 
「ふ、フーリエちゃんっ!」
 
「……ッ」
 
 
 フーリエちゃんはすぐ横で心配そうにフーリエちゃんを見つめるリリーパ族のほうを見る。
 
 
「……大丈夫? 今のうちに、早く逃げて」
 
 
 震える声でそう声をかけると、リリーパ族は困惑しながらも逃げていった。
 ゲッテムさんは怪訝そうな顔をする。
 
 
「……テメェの敵を身を挺してかばうとか、馬鹿を通り越して言葉もねぇぞ?」
 
「敵じゃ……ありません! あの子たちは、私を助けてくれた。だから、今度は私が……」
 
 
 フーリエちゃんはゲッテムさんに向かって強く言い張る。
 ゲッテムさんはこちらを見た。
 
 
「……シャル。お前もそっち側か?」
 
「さっきからそういってるの! あなたの言ってること、わかんないわっ!」
 
「……わかっちゃいねぇ。お前らは、何もわかっちゃいねぇぞ!」
 
 
 ゲッテムさんが叫ぶ。
 
 
「そんなやつらでもいずれはダーカーに侵食され、狂う。
なら、そうなる前に殺してやるのが生殺与奪を握る側の優しさってもんだろうが?」
 
「……ッ」
 
 
 フーリエさんは力強くゲッテムさんをにらみつける。
 
 
「……キャストのクセに、そんな目で俺を見るな。
ちっ、一気に冷めた。帰るぞ、シーナ!」
 
「はい。それではシャル様、失礼します」
 
 
 二人はそのまま立ち去って行ってしまう。
 二人が離れたのを見て、アタシはフーリエちゃんに駆け寄る。
 
 
「フーリエちゃん、大丈夫!? 相当強く殴られてたけど、けがとか……」
 
「大丈夫です、傷は深くありません。私、頑丈なのが取り柄ですからね」
 
「そっか、よかったぁ……あ、あのねフーリエちゃん、さっきの話は……」
 
「……わかってます。あの人の言うことにも一理はあるんです」
 
 
 フーリエちゃんが顔を伏せる。
 
 
「ダーカーの影響を受けて、狂ってしまう。狂ってしまったら、倒すしかない……それは、本当のことですから。
ただの偽善……問題の先送りにすぎない。それでも、それでも私は、信じたいんです」
 
「……フーリエ、ちゃん」
 
 
 ……フーリエちゃんの言ってることは、気持ちは、わかる。ゲッテムさんの言うことなんかより、ずっと。
 その思いが、無駄だって思いたくはない……
 
 ふと、リリーパ族の一匹がフーリエちゃんに寄ってきてフーリエちゃんの顔を覗き込む。
 フーリエちゃんは顔を上げる。
 
 
「あ……ありがとう。心配してくれてるの? うん、大丈夫、大丈夫だから……」
 
 
 ふと草陰を見ると、他の群れも戻ってきてこちらを恐る恐るのぞき込んでいた。
 さすがにというかなんというか、近づいてくるのもこちらから近づくのも難しそうだ。
 フーリエちゃんもそれに気づいたらしい。
 
 
「たはは……まだ怖いみたいですね。でも大丈夫、きっと大丈夫です。
時間はかかりそうですけど……私、諦めませんから!」
 
 
 そういうフーリエちゃんの表情は、明るかった。
 
 ……うん、フーリエちゃんなら、きっと大丈夫だ。
 みんなでなかよく、なれるはず。なれるって思いながら、頑張りたい……
 
 
 
 
 
 
 
 
  あとがき
 フーリエちゃん回でした。
 分岐のところどうするか結構悩んだ!
 



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