「本当お前のする話ってわけがわからないよな」
 
「アタシだって正直よくわからないわよ」
 
「わからないはわからないでもその次元が何となーく違うよねー」
 
 
 おねーちゃんとルクスくんと話しながら凍土を歩く。
 
 アタシは、ロジオさんに凍土の調査を頼まれる少し前に戻ってきている。
 そのことを……ようするに、巻き戻っているってことを……ルクスくんとおねーちゃんに話した結果、こうなってしまった。
 
 
「シャルのことを否定するわけじゃないけど……シャルが言ってることって、あたしたちにとっては『未来を知ってます』って感じだものね。
突飛というか、なんというか。夢物語でも聞いてるみたい?」
 
「オレも前から聞いてはいたが、正直理解できない」
 
「うっ、うぅ……」
 
 
 ……二人とも信じてくれない。
 凍土のことを調べたくて来たけど、一人で来たほうがよかったかしら……。
 
 
「……あれ、アークスじゃないか」
 
「んむ? ……あ、本当だわ。何か聞けるかも。行ってくる!」
 
 
 ルクスくんが指差した方向から、歩いてくる人影。
 赤い服に帽子にサングラスのアークス……クロトさん、って人だったかしら。
 アタシはクロトさんのほうにかけていく。
 
 
「ん……おや、こんにちは。君は探索できたのかな?
それとも任務かな?」
 
「こんにちは、なの。アタシは探索中、です。
えっと、クロトさんは?」
 
「私はダーカー殲滅のためにここまで来たんだ……けど、なんだかちょっと拍子抜けでさ」
 
「ひょーしぬけ?」
 
 
 アタシは聞き返す。
 クロトさんはこくりとうなずいた。
 
 
「さっきダーカーに遭遇したんだけど、襲い掛かってくる様子もなくて……何か探してるみたいだった。
とりあえず、倒せる分は倒したけど……逃しちゃったのもいるから、その辺でまだ何か探してるかもね」
 
 
 なんだかのんびりしたした口調で話すクロトさん。
 ……アークスに襲い掛からないダーカー、何か探してるみたいだった……『前』に見たのとおんなじだ。
 
 
「ダーカーにしてはすごい統率されている感じで、何とも不気味だったなあ」
 
「……ふぇ?」
 
「まあ、あいつらが不気味なのは今に始まったことでもないか。お互い気を付けよう」
 
 
 クロトさんはそう話すと、じゃあねと軽く手を振りその場を立ち去って行った。
 
 ……統率されてるみたいなダーカー? 統率って、誰かまとめてる人(……ダーカー?)がいるってこと?
 ダーカーって、確かに出てくるときは結構いっぱいの時が多いけど……そんな動きってするっけ?
 考えていたら、ルクスくんとおねーちゃんがこちらに歩いてきてた。
 
 
「シャル、話聞けた?」
 
「うん。えっとね……」
 
「あ、あーっ! 相棒、ちょうどいいところにっ!」
 
 
 いきなり、慌てた声。顔を上げ振り向くと、そこにはこちらにかけてくるアフィンくんの姿があった。
 
 
「……騒がしいな」
 
「あっ、やべ。取り込み中だったか?」
 
「大丈夫よー。それより、そっちのほうは大丈夫なの? ずいぶんとあわててるけど……何かあったの?」
 
「あった! 相棒、おれの話を聞いてくれ!」
 
 
 落ち着きのない様子のアフィンくん。
 アタシは少し気圧されつつ、うんとうなずく。
 
 
「その、さっき……凍土の奥のほうで見たんだよ!」
 
「……? 何を? ダーカー?」
 
「違う、なんか、すっげー不気味な人影だよ! 何かを探してきょろきょろしてんの!」
 
 
 腕をぶんぶんと振り回しながら話すアフィンくん。
 ふとルクスくんの顔を見ると不機嫌そうな顔をしていた。おねーちゃんも、困ったような顔。
 
 
「……今さっきほかのアークスとあった。たぶん、ほかにもアークスが来てるってだけじゃないか?」
 
「それはねーよ、あんな不気味な奴見たことないし!
遠くでよくは見えなかったけど、なんつーか……真っ黒い感じだったんだよ!」
 
 
 ……黒い人影?
 ふと、脳裏によぎったのは修了任務の時の仮面の人物。
 仮に同じ人だったとしても……なんで、凍土にいるの?
 アークスではないらしいことはわかっている。いったいあの人は、何者なの……?
 
 
「とにかく、この奥に行くんならお前も気を付けろよ。んじゃおれは帰るからっ!」
 
「あ、うん。アフィンくんも帰り道気を付けてね」
 
 
 アフィンくんはそのまま走り去ってしまう。
 アタシたちはお互いの顔を見合わせた。
 
 
「ダーカーに、怪しい人影かあ……なんというか、きな臭いわねー」
 
「この時点では安易に関連付けられもしないけどな。
ダーカーが多く出現してるってだけでも警戒するに越したことはないが……。
シャル、調べるか?」
 
 
 ルクスくんに尋ねられ、アタシはふるふると首を横に振る。
 
 
「今は大丈夫、だと思う。近いうちにまた来るはずだから」
 
「あ、そういえば調査引き受けてるって言ってたよな。それか?」
 
「それー。だから、その時に何とか調べてみるわ」
 
 
 アタシがいうと、ルクスくんはまた嫌そうな顔。
 あ、こういう顔するときって……
 
 
「……お前一人で大丈夫なの?」
 
「し、信用がないぃ……」
 
「ルクスー、大丈夫よ、この子前ちゃんと調査やってたから」
 
「大丈夫かぁ……?」
 
 
 ルクスくんの疑いの目が痛い。
 どうしてこうルクスくんはいっつも……うぅ……。
 
 ……大丈夫だ。
 不安はないと言ったらウソになるけど、やるしかないんだから。
 
 
 
 
 後日、ロジオさんに頼まれた凍土の調査の日。
 あの時と同じように、アタシは凍土を訪れた。
 
 雪が降り積もっている道を進むと、『前』と同じようにダーカーがいた。
 こちらを気にも留めず、何かを探すように動き回っている。
 
 
『……今のデータは、ダーカーですか?
アークスを見つけたら襲ってくると資料にはあるのですが……』
 
「うん、何かを探してるみたい……そういううわさを聞いてるわ」
 
『だとすると、今のがそうなのでしょうか? いったい何を探しているのでしょうか……』
 
 
 何を探しているかは、わからない。
 こっちも探ってみないとわからないかもしれない。
 でも、心配事は他にもいろいろある。
 
 
「人影のうわさもあるのよね。そっちも、なにがあるのか分からないけど……。
……ロジオさん、アタシ、あれ追ってみるわ。調べてみたいの」
 
『わかりました、注意してくださいね』
 
 
 アタシはダーカーの後を追う。
 
 進むとダーカーの数は一層増えていた。
 しかしとくに隠れなくても、ダーカーがこちらに襲い掛かってくる気配はない。
 本当に何かを探しているみたい……だとしても、いったい何を……。
 あたりを見回しながら歩く……が。
 
 
「……ふぇっ」
 
 
 道の先に、黒い人影。
 アタシは慌てて岩陰に隠れる。
 
 あれは……やっぱり、前に会った仮面の人だ。
 なんでこんなところにいるのかわからない。何かしに来たの?
 
 
『シャルさん? 座標データが止まっているようですが、何か問題でも起きましたか?』
 
「し、しーっ!」
 
 
 息をひそめて、様子をうかがう。
 あの仮面の人物はあたりを見回しつつ先へ進んでいく。
 ……あの人も何か探っている?
 
 
『す、すみません……今の人は一体?
もしかして、うわさにあった人影というのはあの人のことでは?』
 
「わかんないけど、そうなのかしら……ん、む?」
 
 
 いきなり、頭に響くような金属音。音はすぐに消えてしまう。
 あたりを見回すが。そんな音が出そうなものは見当たらない。
 ただ変わらない、雪と氷とがあるだけだ。
 
 
『どうされましたか?』
 
「音がしたんだけど……なんか、キーンって音。聞こえなかった?」
 
『いえ、こちらのデータでは特に何も捕捉していませんが』
 
 
 ……アタシにしか聞こえなかったってことかしら?
 空耳……とは思えないけれど。空耳って、あんなにはっきり聞こえるものだったっけ?
 
 妙な音に、なぜかここにいる仮面の人。
 ナベリウスに、何があるのかしら……
 
 
 
 
 
 
 
 
  あとがき
  もしかしなくてもぺるそな書くときはしゃいでいる私です。
  隙あらばルクスやクラベルたちも出しています。現時点ではストーリークエストの内容には混ぜづらいのですが、マターボードの内容であればぎりぎり混ぜれます……
  ただ会話劇のほうが圧倒的に書きやすいです……そう! 次回は地獄の戦闘描写だ!!



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