アークスシップ内、訓練フィールド。
 どうやら普段なら仮想敵を出現させるらしいんだが、今はちょいとそれはなし。
 
 あたし麻美は、赤髪の青年グロリアと武器をぶつけあっていた。
 
 
「へえ、結構な腕前じゃないか! どこでそんなに鍛えたんだ!?」
 
「ちょいといろいろありまして! ……そらっ!」
 
 
 あたしは軽く杖を振るい、黒いフォトンの塊を出現させ、グロリアに向けて飛ばす。
 グロリアは剣でそれを受け止めた。
 
 
「お、テクニックも打てるようになったのか」
 
「まあね、感覚的にはこっちのほうがわかりやすいくらいかも。でも性分には合わないんで、やっぱカタナがいいかな?」
 
「ん、そうか? じゃあお前のクラス適性はブレイバーなんだろうな。……こんなもんで大丈夫か?」
 
『ああ、データも結構取れたって。戻ってきていいぞ』
 
 
 通信機からはルクスの声。
 ふむ、これで特訓おしまいか。あたしはグロリアについていき訓練フィールドを出た。
 
 
 
 
 ロビーを抜け、艦橋へ向かう。
 
 
「お疲れ様です、グロリアさん、麻美さん!」
 
「麻美ちゃんお疲れ様なのー!」
 
「お疲れ、モニター見てたわよ!」
 
 
 艦橋に入ると、シエラちゃんとシャル、それとクラベルが出迎えてくれた。
 
 アークスシップでいろいろと訓練やら簡単な座学(というかルクスとグロリアからアークスのこといろいろ教わったというか)を受け、とりあえず仮ではあるがアークスと同じようなことをする許可をもらったあたし。
 シャルはなんでも守護輝士というすごい人らしい。それで、保護という名目で少し無茶を通してもらったとか。
 ……ちなみに本人たちから許可はもらってタメ口で話させてもらっている。
 
 あと、シップで数人ほどシャルのアークスの友人であるという人たちともお話した。
 それが今艦橋にいるひとたちなわけだが。
 
 まあまずはルクス。東京でシャルと一緒にいた赤毛の人。
 どうやらシャルとはきょうだいでルームメイトらしい。
 オタク的に何か違うものを感じなくもないが……深追いはね、さすがにやめよう。
 
 次にクラベル。アンドロイド的な種族、キャストのお姉さん。
 妹分ができた! とめちゃくちゃハグされたのが強く印象に残っている。
 なんだか年上のお姉さんにかまってもらっていた昔を思い出す。
 ちなみにシップではこの人の部屋に居候させてもらうことになった。
 
 で、さっき特訓に付き合ってもらったグロリア。
 なんでも記憶喪失のところを拾ってもらったらしい。拾われたってとこ、ある意味あたしとおんなじだ。
 なんでも故郷を探してるみたいでいろいろ聞かれたが、グロリアが見せてくれたピアスの文字は見覚えのないものだった。
 
 それと、シャルの友人というのは少し違うらしいが……特別製キャストの女の子、シエラちゃん。
 守護輝士という特別役職のシャルをサポートする専属オペレータらしい。
 明るくてかわいい女の子だ。うむ、華やかでいいぞ……。
 
 で、彼らはアークスという、オラクル船団に所属する組織の一員らしい。
 アークスの目的はダーカーというモンスターの殲滅。
 が、あること(ルクス曰く、シャルが原因らしい)から地球を発見、現在調査中らしい。
 
 
「戦闘訓練でいろいろ武器使ってたけど、どうだった?」
 
「うん、テクニックも行けそうだけど……やっぱりカタナがいいかな。弓も練習しておくつもりだけど」
 
 
 あたしはここ数日他の人達に手伝ってもらって、アークスの武器を試させてもらってた。
 もともと剣道は叩き込まれてたうえ、これまでに訪れた世界で刀は嫌というほどぶん回したことがある。
 射撃もそういうゲームはやってたからそこそこ得意ではあるけれど、やっぱりカタナがいちばんだろう。
 さすがにこの世界じゃ木刀自作は心もとなさそうではあるけど。そこは慣れかなんとか相性いい武器見つけるかだな……。
 
 
「にしても、麻美さんはこれまでフォトンを使ったことはないんでしたよね?
そのわりには、とても扱いがうまいというか、中の上くらいのアークス並みというか……」
 
「んんー、あたしのもともとの能力がフォトンと相性がよかったんだとおもう。簡単には話したよね」
 
「ああ、お前っての地球とは別の世界の人間だって話と、その別の世界が由来の能力だってことか。にわかには信じがたいけど」
 
 
 シャルたちにはあたしが異世界人であることを話してある。
 あと、ちょいと特殊な能力を持っていることも。
 
 あたしの特殊能力。萌えを糧として森羅万象に干渉し、想像を具現することができる力。
 時には魔法のような現象を起こすことができるこの力。
 エーテルにより感情が具現される地球に来ちゃったときにアルフリーに封印されたが、ついうっかり封印解いちゃいましたてへっ。
 ……アルフリーにアークスシップに来ることは連絡したけど、返事は聞いてないので封印の経緯も含めて滅茶苦茶説教されるだろうなあ……怖いなあ……。
 
 
「森羅万象、要するに世界にある力とか物質とかを操れるのさ。それでフォトンも「森羅万象である」と解釈できて、ちょいと、ね。
シャルたちの戦闘を見てて使い方の要領はわかったし」
 
「み、見てるだけでわかったのぉ……」
 
「才能あって偶然つかえましたってやつはいるとは聞いていたが……」
 
「地球でもアークスのようにフォトンを扱える人がいるなんて……話を聞いていると、麻美さんの能力自体が汎用性の高いもののようですが」
 
「まあ汎用性は高いかも。どんな世界でもこれで生き延びてきました」
 
 
 多分だけどアタシの能力は、無の世界でもない限り使えるものだ。「無の世界」が「在る」かは知らないけど。
 自然エネルギーみたいなもんを操るわけで、今回はそれがフォトンだったってだけ。
 
 
「まあ今後もシャルたちは地球やその他惑星で戦ったりするんでしょ? あたしもこの力でお手伝いしますよ☆」
 
「いや地球のことはともかく、麻美は他の惑星はちょっとだめじゃ……」
 
「正規アークスか許可降りた候補生じゃないと降下できないので……特例ももちろんありますが……」
 
「うっそぉ!? じゃあ特例くださっ……あっだ!?」
 
 
 いきなり、後頭部をぺしんとはたかれる。
 振り向くと、そこに立っていたのはルクス。こいついつのまに!
 
 
「調子乗ってんじゃないぞ馬鹿。お前まずオレたちに保護されてるっての忘れてないか? お前はオレたちより下だぞ、し・た」
 
「異文明人にそんなコンタクトとるか!? 初対面の時も思ったけどそういう態度どうかと思いまーす!」
 
「お前の態度もどうかと思いまーす!!」
 
「バカ二人が騒いでやがる」
 
「ルクスー、落ち着いてー。えっと、そうねえ……シャルはどう思う?」
 
 
 クラベルがシャルに尋ねる。
 シャルは一瞬目を丸くし、少し考え込んだ。
 
 
「ううん……アタシは、麻美ちゃんにもお手伝いしてもらいたい、かも。あ、でも一人はダメ、だと思う。麻美ちゃんダーカーとは戦い慣れてないと思うし、危ないから。
それに、地球のことも……調べてはいるけど、麻美ちゃんからも教えてもらいたいなって」
 
「あー……うん、そういうことなら、従うよ。情報提供もする。
とはいってもあたしあの場所にいたの数か月くらいだから、そんなに知識はないぞよ?」
 
「それでも情報提供していただけるのはこちらとしても助かりますよ。どんな情報も貴重です!」
 
 
 そういう言い方をしてもらえると拒めない。ちょっとずるい。後ろでルクスが「なんであいつのいうことは聞くんだ…」と拗ねているがスルー。
 言い方ってものがあるのじゃよ。
 
 
「とりあえず、麻美さんの処遇については報告しておきます。出撃の必要があるときは正規アークス同行必須、ということで。あと、情報提供の協力をお願いしたことも」
 
「ごめんねシエラちゃん、お願いっ」
 
「これも私の仕事ですのでっ」
 
 
 微笑んで応えるシエラちゃん。シャルのオペレーターとだけあって頼もしい。
 今後も頼りにしていこう。かわいいし。
 
 
「これで麻美ちゃんもいろいろ安心してここにいられるわね」
 
「えへへ、うん、ありがとう。シャルのおかげだよ。いつかちゃんと恩は返すから」
 
 
 あたしがそういうと、シャルはきょとんと目を丸くした。
 
 
「おん、かえす?」
 
「うん、助けてもらった分、報いるつもり。今度はあたしが助ける番。
……どのくらい力になれるかはまだわからないけど」
 
「麻美お前……自分のここでの力量わかって言ってんのか」
 
 
 ルクスがまた毒を吐いてくる。
 そりゃあアークスとしてはド新米ですけど! スタートラインにすら立ってませんけど!
 
 
「ルクスーお前なあ。そこまで冷たくすることはないだろ。俺の時よりひどくねえ?」
 
「グロリアは「壊世区域で生き延びた」っていう実績で戦闘能力あるの実証してただろーが。
その点こいつは死ぬほど危なっかしい」
 
 
 うっ、危なっかしいって言われると否定できない。
 実際、大見えはった上でルクスに助けてもらったわけだし。
 ルクスはがし、とあたしの頭をひっつかむ。
 
 
「とにかく、身の程をわきまえろ。不相応な無茶はするな。
基本オレたちの指示に従え無視したら蹴飛ばす」
 
「体罰だけは納得いきませんがさーいえっさー!」
 
 
 アタシはびし、と敬礼してみせる。ルクスは本当にわかってんのか、とあきれ顔だ。
 すすすっと、さりげなくシャルが少しかがんであたしの近くに来る。
 
 
「麻美ちゃん、ルクスくんね、心配してくれてるだけだから。
ルクスくん、人前だといつも乱暴な言い方しかしないけど、こうみえて優しいのよ?
だからだいじょうぶなの、あたしたちも麻美ちゃんのこと支えるし、安心して」
 
「う、うん。ありがとう、シャル」
 
「何吹き込んでんだ馬鹿シャル」
 
「べーつにー。ルクスくんいつまで怖い人のふりしてるんだろうなーってだけー!」
 
 
 にぱ、と笑顔で言うシャル。
 ルクスはそれを聞いてすぐに駆け出してきた。シャルはきゃー、と子供みたいな声を上げて逃げ出す。
 
 
「ちょっと、艦橋で全速力で走ったら危ないですよ!」
 
「うるさい! 捕まえる! 叱る! マジで蹴飛ばすあの馬鹿守護輝士!!」
 
「ルクスくん体力ないの知ってるもーん! 追いかけっこならアタシが勝つもんね!」
 
「馬鹿シャルぅぅぅーーーーッ!!」
 
 
 どたばたと駆け回る二人。
 あの人ら、あたしより年上って本当だろうか。
 クラベルとグロリアも苦笑している。見るに、このやり取りはいつも通りなんだろうな……
 
 
 この世界は、ずいぶんと楽しそうである。危険があるのは百も承知だが、それ以上に、ずっと素敵な萌えがありそうだ。
 楽しい人たちに囲まれて過ごす日々。幾度目かの奇跡。
 この世界で、あたしはどんなものを見るんだろうか。
 
 これからが、楽しみで仕方がない。
 
 
「さて、わからないことがあったらあたしたちに聞いてよね。グロリアもこれで記憶力あるからそこそこ頼りになるでしょ」
 
「そ、それはもう頼りにしますっ! いろんな面でっ!」
 
「とりあえず麻美、あとで座学な。まだ全部教えたわけじゃないし。グロリアも付き合え」
 
「へいへい。俺だけでもある程度のことは教えられるけど?」
 
「いろんな意味で信用ならんわばーか。あ、シャルもするか?」
 
「えっやだ……あっすいませんごめんなさい睨まないで!」
 
 
 ……本当に、賑やかだ。
 これからしばらくは、楽しく過ごせそうだ。
 
 
 
 

 

 

 

 
 


 


  あとがき
  麻美の話、その2。
  麻美inアークスシップ編。すでに数日たった後の話です。すでに萌え探しを始めている。
  この時点でのシャルたちはヒツギちゃんと出会った直後あたり。その辺はいつかEP4編を書き始めたらね……
  麻美の能力はうちの魔術師ではよくあるタイプですが、実現できる範囲がやばいという点でチート一歩手前。書く側としても危険極まりない……ッ!
 
 
 
 
  * 戻る *