目の前、仁王立ちするは見慣れた顔の人物。
 
 はちみつみたいな金髪に碧眼、一見西洋人じみた中性的な見た目の少年。
 ニコニコと笑顔を浮かべるその人は……神の化身、アルフリー・スタンリヒ。あたしの旅の同行者にして案内人。
 
 ある日部屋に戻ると、アルフリーが笑顔で待っていて。
 顔を合わせるなり正座を指示され、あたしは言われるがまま正座してアルフリーの顔をまじまじをみつめていた。
 
 
「麻美、言い訳は?」
 
「しません」
 
「そっか」
 
 
 アルフリーは表情を崩さない。
 
 アルフリーめ、なにも黙って来ることはないだろう。心臓に悪いわ。
 どうせこっちの世界にいるのはばれると思っていた。なんせ神様、それも時空系の能力に強いやつ。
 あたしが誘導なんかしなくても、勝手にこうやってやってくるのは予感していた。
 
 んで……あたしの背後、隣の部屋に続くドアから心配そうにのぞきこんでくるシャル達一行。反応はできないが、あたしはその存在に気づいている。すごい視線を感じる。
 ……頼むから、助けてほしい。
 
 アルフリーがすっと顔を上げる。その視線の先にはアークス連中。
 
 
「すいませんそこのアークスの方々」
 
「はわっ、ばれたっ」
 
「あー、ばれるわよねー」
 
「ちょっと麻美について伺いたいことがあるんで、こちらに来ていただいてもいいですか?」
 
 
 アルフリーが表情を変えずに話しかける。要するに笑顔。
 こんなの威圧にしか見えない。
 
 
「あ、アルフリー! シャルたちは関係ないよ大体あたしのせいだよっ!?」
 
「それはそれで謝らないといけないからねえ、麻美が迷惑かけたこと」
 
「オカンか!」
 
 
 あたしは反抗するが、アルフリーは知らんぷりだ。
 アークス組……特にシャルは戸惑っている、無理もない。
 
 
「うぅ、えっと、えっと……行って大丈夫なのかしら……」
 
「ここで逃げたら逃げたで問題だろ……シャル、お前一番前だから先行け?」
 
「うえぇいじわる!」
 
 
 シャルたちが部屋に入ってきて、シャルはあたしの横に座り他の人達はあたしたちの後ろに立つ。
 ちらっと見たらシャルが立ってるルクスたちを見て戸惑っていたが、あたしとしては隣にいてくれるとありがたいよ。
 
 
「……まずは、ご挨拶を。僕はアルフリー・スタンリヒ。麻美の一時的な保護者です」
 
「えーと、この人、あたしの友人です。あたしが異世界旅できるの大体この人のおかげです。神様の化身だそうです」
 
「か……さらっとすごいこといったな麻美」
 
「事実ですので。まあ、もともとの力を二分割したうえで弱体化してるので、普通の人間より一回り能力が上程度ですけれどね。
それで、そちらは?」
 
 
 おう、言いよる言いよる。
 普段神の化身であることを明かさないし自慢する様子もないアルフリーが、鼻にかけたように言ってるってことは不機嫌だってことだ。いや不機嫌になっても仕方ないんだけど。そして原因はほぼあたしなのだけれど。
 
 
「あ、アタシはシャル。アークスで、守護輝士ですっ」
 
「……ルクス・バンボロットだ」
 
「クラベルよ、よろしくねーアルフリーくん」
 
「グロリアだ……つっても、これ本名じゃないと思うんだけど」
 
「ああ……よろしくおねがいします」
 
 
 アルフリーは微笑むが、よく見たら笑顔が死んでる。すごい、不機嫌の極み。
 と油断してたら、アルフリーがガシッとあたしの肩を掴んできた。
 
 
「とりあえず、麻美。君封印解いたって?」
 
「う、うぃっす、解きました……」
 
 
 アルフリーの手に力が込められる。ちょっと痛い。
 ちくしょう、ふだん非力な癖に怒ると変にパワーアップしやがる。
 
 
「……封印ってなんのことだ?」
 
「麻美の能力に封印を施してたんですよ。エーテルに反応しないようにする、結界みたいなものですが。
……で、いつ解いたの」
 
「うっかりアークスの隔離領域に入って幻創種にうっかり遭遇してうっかりシャルたちに遭遇してその時に……」
 
「ってことは……麻美、お前能力の封印とやらを解く前に隔離領域入り込んでたのか」
 
「そうだねー無意識って怖いね」
 
「無意識って問題じゃねえ……」
 
 
 てへ、と笑うとアルフリーがガシ、とあたしの頭をひっつかんできた。
 あんた女性嫌いのくせになんであたしにはこう強気なんだ!?
 
 
「麻美の能力の高さにはほんっと――――に驚かされるねえ……!?」
 
「褒められてる気がしない脅されてる気しかしない!!
いやあの封印解いたのは危機的状況に陥ったから不可抗力だよ!?」
 
「えっ、えっとっ、幻創種をさばききれなかったのはアタシの力不足だし、アタシがちゃんと戦えてたら麻美ちゃんが戦う必要なかったはずだし……麻美ちゃんは悪くないわよぅ!」
 
 
 慌てて話すシャル。
 ひぃぃ、かばってくれるのはうれしいけど罪悪感が半端じゃないぞ!?
 シャルの話を聞き、アルフリーが息をひとつ吐いた。
 
 
「あー、読めた。『能力』使わなくても読めた。
麻美、助けてもらって自分も戦わなきゃーって思って封印解いたね?」
 
「うっ、そうです……守られてることが足かせになってるって思ったら、戦わなきゃって思って……」
 
「その割には足引っ張ってたけどな」
 
「ルクスー、そういうことは言わないであげて」
 
 
 ……あたしのせいで誰かが余計に傷つくなんて嫌なんだ。足を引っ張るのが嫌なんだ。
 だから、あたしは戦うことを望んだ。
 ……結果足引っ張ってたら元も子もないってのは言い訳できないわー! 反省してますいやほんとに。
 
 
「だ、大丈夫だよ、アルフリー。あたし、シャルたちにもアルフリーにも迷惑はかけないよ。
こっちで元の世界に帰る手がかりも見つかるかもだしね。ただ楽しむだけじゃ終わらせないっての」
 
「……本当だね? 君よく本来の目的そっちのけで遊ぶけど本当だね?」
 
「本当だよっ! 今だってシャルたちのお手伝いするって決めてるしね!」
 
 
 ふふん、と笑顔で言ってみせる。
 アルフリーは「ああそう……」とあきれ顔だ。知り合って割と長いんだから、あたしの性格、能力なんて把握してるはずだ。
 あたしは恩を忘れない。そしてあたしの力は萌えを糧にする力。萌えを逃すわけがあるまい!
 
 
「それじゃあ、こちらの世界の事情をお伺いしたいのですが……えっと、あなたは……」
 
「アタシ? シャルですっ!」
 
「女性かと思った……シャルさんですね、すこし、手を借りてもよろしいですか?」
 
 
 シャルはきょとんとしつつ、手を差し出す。
 アルフリーはその手に触れた。
 他の人達は不思議そうにそれを見ている。グロリアがさりげなくあたしのそばに来て耳打ちする。
 
 
「……な、あいつ何してんだ?」
 
「えー、こっちだとなんていえば伝わるのかな。サイコメトリーみたいな……?
アルフリーはちょっと特別で、触れたものの過去か未来が見えるんだ」
 
 
 アルフリーは神様の化身、特に時を司り、時を操る能力にたけている。
 サイコメトリーみたいな能力もその能力の一つらしい。本人曰く、過去を見るか未来を見るかの制御はいまだにできないらしいが……神様そのものじゃないからカンペキじゃないんだろう。
 
 アルフリーはシャルの手に触れて目を細めるが、しばらくして怪訝そうな顔になった。そして手を放す。
 
 
「……全然読めないんだけどなにこれ。この世界の時間軸がめちゃくちゃなの? 何なの? どうなってんの?」
 
「アルフリー、キレてタメ語になるの止めようよ……」
 
 
 眉間にしわを寄せるアルフリー。
 シャルはアルフリーの言葉を聞いて視線をそらす。ルクスも、呆れたようにため息をつく。
 
 
「言ってること心覚えがあるかもぉ……」
 
「時間軸ってことならなあ……おまえめちゃくちゃやばいよなぁ……」
 
「やばいって……ちょっと、口頭で説明して」
 
「だからタメ語……」
 
 
 結局シャルたちがこちら側の世界について口頭で説明することになった。
 内容はあたしが教わったことと大体おんなじだ。
 フォトンというエネルギーがあること、アークスはダーカーの殲滅を目的とした集団であること、シャルがひょんなことから地球にたどり着いちゃって調べていること。
 
 
「……それで、時間軸がごちゃごちゃになってるのは? 複数の時間軸が複雑に絡み合ってるみたいな感じなんだけど……」
 
「シャルが制限付きだが時間遡行能力の持ち主でな。過去に戻って時間改変してた」
 
「ぶっ!?」
 
 
 ルクスの説明を聞き、勢いよく噴きだすアルフリー。
 アルフリーは慌てて口元をぬぐい、信じられないものを見るような目でシャルを見る。
 
 
「か、過去改変ん……!?」
 
「聞いてる限り各時間軸のいいとこどり、でな。そうだったよなシャル」
 
「う、うん……1回目にあった人に2回目に出会えなくても、1回目にあった人に忘れられたりしなくて、あったことが完全になくなったわけじゃなかったりしたから……」
 
「なんて言ってたっけ、オラクルの中枢だったシオンの力を借りてたのよね。シオンって演算機構みたいなものって把握してたけど」
 
「えぇ、なにそれ……複数の時間軸から一部の都合のいい事象だけ選び取ってるってこと……?」
 
 
 アルフリーは困惑してる。
 あたしも一部初耳である。シャルに時間遡行能力があってそれでいろいろやってたってのは少し聞いたけど……本当に都合のいい時間遡行能力だな。
 
 
「演算機構……演算でまさかすべての時間軸……可能性を把握できたとか……?
まあいいや、その力があなたを光……英雄たらしめていることはわかりました。正直認めたくないけど」
 
「ショウジキミトメタクナイケドってなんでえ……」
 
「オレも正直認めたくないからな頭ちびっこの馬鹿シャル」
 
「シャルすごいと思うけどなー……まあそんなわけでさ、あたしはシャルたちのお手伝いをしたいわけよ。この世界で起きてる諸問題を解決するお手伝い」
 
 
 地球で起きてること、ダーカーのこと……命の恩人であり、この世界の、アークスの英雄であるシャルの周囲で起きる出来事。
 それらをお手伝いしたい。恩返ししたい。あたしが考えるのはそれだけ。
 アルフリーは眉間にしわを寄せて考え込んでいた。
 
 
「……正直僕はまだアークスを……ちがうな、シャル個人を完全に信用はできない」
 
「ふえっ!?」
 
「は!? ちょ、アルフリーなんで……」
 
「でもこれはあくまで個人的な考えだからね、私怨と言っていいくらいの。
ごく一部を見たら「シャル」は僕にとっては許しがたいけれど、世界全体で見たら、君が英雄としての偉業を成したことは把握したよ」
 
 
 ため息交じりに話すアルフリー。
 ってか、私怨? アルフリー、シャルと会ったことはたぶんないよな……それともオカマに嫌な思い出でもあるんだろうか。
 
 
「それに、麻美はいつもとんでもないことするけど、最終的にやることはやってくれるし、判断力も人を見る目もある。
……でも元の世界に帰る方法については、麻美?」
 
「うっ」
 
 
 今まで帰ることをめったに考えなかったからそこを突かれると困る。
 アークスの技術力をお借り……するわけにはいかないよねえ……
 
 
「……まあ、どっちにしろ君一人で「駆ける」ことはできないからそれは僕がやるか。
君は君のしたいことをしていていいよ。ただし僕と周りの人に迷惑はかけるな、特に、君のヘンテコ妄想に巻き込んだりするな」
 
「承知しております! んで魔術的アプローチはそっちに任せたよアルフリー!」
 
「め、迷惑だなんて思ってないのにー……」
 
「話は終わったか」
 
 
 しびれを切らしたっぽいグロリアに、終わりましたよとほほ笑むアルフリー。
 
 
「とはいえ、僕自身こちらの世界も気になりますし、それこそこちらの世界に麻美が帰る手がかりがあるかもしれません。
なので、基本地球で個人的な調査を行いますがたまにはこちらを覗きに来ます。……麻美をよろしくお願いします」
 
「大丈夫よ、あたしらアークスに任せなさい! しかも英雄的称号を持つシャルもいるし! 安泰!」
 
「おねーちゃんアタシにいろいろかぶせるつもり!?」
 
「まあ信用されてないって言われたし信用されるに足る行動しないとなあ守護輝士様」
 
「ルクスくんまで意地悪なこと言う!」
 
 
 いじわるー!とルクスやクラベルに訴えるシャル。
 本当この人たちは……。
 アルフリーはふとこちらに視線を向ける。
 
 
「とにかく、麻美。何度でも言うけど他の人達に迷惑をかけないように」
 
「わかったわかった、いい加減耳タコなんだけど」
 
「もっと言っても君はやらかすでしょうが! ……まあ、いいや」
 
 
 呆れたように溜め息をつくアルフリー。ちょっとはあたしを信用しなよ。
 ひとこと言ってやろうかと思っていたら、シャルがあたしのそばに来る。
 
 
「えっと、アルフリーさん。アタシのことは信用してないかもだけど……麻美ちゃんは大丈夫よ。すっごく強いもん。
もちろん、アタシたちも麻美ちゃんを危険な目に合わせないようにするわ。だから、安心して?」
 
「ええ、よろしくお願いします。麻美に何かあったら、あなたがなにかしでかすようなら僕はすぐにでも麻美を連れて別の世界に逃れますので」
 
「え、マジか」
 
 
 あたしがうっかり口を滑らしたら、アルフリーがきっとこちらをにらんできた。
 「当たり前だろう」とでも言いたげな目だ。……なんでシャルを敵視するかあたしは知らないんだけど。
 
 
「……この世界の未来は、何もわからない。もともとは決まっていたものかもしれないけれど、あなたの存在が良くも悪くもそれを乱したんだと思います。
だけどせめて、あなたがこの先も光としてふさわしくあることを願います。僕の嫌な予感が当たらないように」
 
「ん、むぅ……? わかったわ」
 
「アルフリーさん、人間の言葉でしゃべってよ。神様の言葉じゃ伝わんないよ」
 
「しゃべってるじゃないか。あぁ、でもまあ……わかりやすく言うなら『期待を裏切るな』、かな」
 
 
 アルフリーの言い方は少し冷たい感じがしたが、その表情はほんの少しだけほころんでいた。
 ……気を許してくれればいいんだけど。
 
 
「まあそんなことなら、麻美の安全はきっちり確保しないとだな」
 
「シャルがトラブルもってきても回避できるようにしておくか」
 
「なにそれー! ルクスくんも信用してないのー!?」
 
「ルクス、シャルはまだ守護輝士の称号貰って時間たってないんだから容赦してあげなさいよ」
 
 
 
 

 

 

 

 
 


 


  あとがき
  麻美の話、その3。アルフリー襲来編。
  神の化身として異世界を旅するアルフリーと、萌えを探して異世界を旅する麻美はひょんなことから懇意の仲です。
  アルフリーがシャルを敵視するのは……まあうちの創作の話なのですが、シャルって白髪に碌な奴がいなかったので。あと、アルフリーは要素についても存じております。
 
 
 
 
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