『3度目』の修了任務から帰還して、いろいろあって、部屋に戻ろうとした道中。
 ふと、ルクスくんの顔がよぎった。
 
 あの子とのこともはじめからになるんだろうか。
 とすると、アタシはまたものすごーく怒られるんじゃないだろうか。そう思うとちょっと嫌な気分だった。
 今度は、今度こそは覚えてもらってますように……!
 そんなことを考えながら、マイルームへ続く廊下を歩いていた。
 
 
「おい」
 
 
 いきなり、後ろから背中を蹴られる。
 突然の不意打ち、アタシはそのまま前へ転んでしまう。
 
 
「ッだぁ!? な、誰……!」
 
「うるさい馬鹿シャル。歩くならとっとと歩け。オレも同じ方向だぞ」
 
 
 聞き慣れた悪口。
 驚いて振り向くと、そこにはルクスくんがいた。いつも通り、不機嫌そうな顔。
 
 
「ルクスくんまた蹴飛ばしてくるー! ……あれ、ちょっと待って、『今回』は今が初対面じゃ……」
 
「あ? お前、シャルだろ? こっちはちゃんと覚えてるけど、お前は忘れたのか?」
 
 
 それを聞き、アタシは思わず目を丸くする。
 
 ルクスくん……覚えてるんだ。
 マトイちゃんを助けに行ったときでも、ゼノさんたちがアタシのことを知っていたように。
 『今回』は、アタシのこと、覚えてたんだ。
 
 
「……ううん、覚えてるわ」
 
「そっか。ああ、お前がおしゃべりってことも知ってるんだけど、何を話してくれるんだ。
聞くだけ聞いてやるよ、覚えるかどうかはさておいて」
 
 
 いつも通り、いやそうな声でルクスくんが言った。
 
 
 
 
 アタシたちの部屋に入った後、アタシは念のため『これまで』のことと『今回』のことを話した。
 仮面の人のこととか、ゲッテムさんのこととか。
 
 
「3回目の修了試験、仮面の人物ねえ……アークスになりたてで命狙われるとかお前は周囲の怒り買いまくってんのか」
 
「か、買ってないわよ覚えとかないわよぅ……。アタシ、アークスになる前はあまり他の人とお話とかしたことなかったし。おねーちゃんくらいしか、親しい人いなかったもの」
 
「おねーちゃん? ……もしかして」
 
「んむ、クラベルおねーちゃ……あ」
 
 
 端末が通知音を鳴らす。メールが来たらしい。
 確認してみたら、メールはおねーちゃんからのものだった。
 『ごはんもって今からそっちに行く』と。
 
 
「ルクスくん、おねーちゃん今からこっち来るって。ごはん持ってきてくれるみたい」
 
「はぁ? 噂をすればなんとやらかよ……断っておけ」
 
「えぇ、でもそんなことしたらおねーちゃん悲しいんじゃ……」
 
「いいから、騒がしくなるのはごめんだから……」
 
 
 ひゅん、とマイルームの扉が開く音がする。
 顔を上げると、そこには笑顔のおねーちゃんが立っていた。
 両手には大きな袋を持っている。
 
 
「来ちゃったぞ弟たち」
 
「帰ってくれ」
 
 
 おねーちゃんの顔を見るなり、食い気味で言い放つルクスくん。
 それを聞いたおねーちゃんはぷうと頬を膨らませる。
 
 
「えぇーなんでよ。ごはん持ってきたから一緒に食べましょうよ」
 
「来るならせめてもう少し早く連絡しろ」
 
「おねーちゃん、ごはんってなにもってきたの?」
 
「ハンバーグ。シャル、好きでしょ」
 
「好き! わーい!」
 
 
 ルクスくんが「その程度ではしゃぐな子供か!」とアタシの頭をひっぱたく。
 なにもそこまで怒らなくても!
 
 
「まだそっちはご飯用意してないでしょ。正規アークスになった記念に一緒にご飯にしましょうよ!」
 
 
 
 
 テーブルや椅子を出して、おねーちゃんの持ってきた料理を並べる。
 ハンバーグに、サラダに、パンに……おねーちゃん、思ったよりいっぱい持ってきていた。
 
 
「あ、デザートもあるからね」
 
「お前どんだけ作ったんだよ!? バカか!? バカだったな!!」
 
「いいじゃない、弟のためにこのくらい頑張ったって。さ、たべましょっか」
 
「いただきまーす!」
 
 
 アタシはさっそくフォークを握り、食べ始める。
 ルクスくんも渋々椅子に座り、「いただきます」とつぶやき、食べ始めた。
 
 
「いやー、にしても何かと見守ってきた二人が立派にアークスやるとはねえ」
 
「まだなって一日たってないけどな。
……ってか、クラベル、シャルと知り合いだったのか」
 
 
 ルクスくんがおねーちゃんに尋ねる。
 前に会ったこと、全部覚えてるわけではないんだろうか。
 
 
「ん、そうよ。一時期一緒に暮らしてたしね」
 
「暮らして……? 兄弟とかじゃないだろ?」
 
「きょうだい……たぶんちがうと思うの。アタシ、おねーちゃんに助けられたの」
 
「は?」
 
 
 ルクスくんは目を丸くする。
 あれ、おかしなこと言ったかしら。
 
 
「シャル、それ自分から言っちゃう?」
 
「……ダメだったかしら?」
 
「シャルが話すのに抵抗ないならいいんだけどさー。
……えっとさあ、ルクス。シャルは、所謂孤児なのよ。今から5年くらい前だったかなあ、ダーカーがシップ襲撃してきた時に家族と散り散りになったみたいで、路頭に迷ってるのをあたしが見つけたの。
結局親戚見つからなくて、それでついこないだまで保護もかねて同居してたのよ」
 
「そう、だったのか……」
 
 
 珍しく、悲しそうな顔をするルクスくん。
 ……なんでそんな顔するのかしら。
 
 
「なつかしいわね、そういえばシャルがうちに来た時初めて食べさせたのもハンバーグだったっけ。
あのときはフォークの使い方もわからなかったみたいで、さすがにびっくりしたわよ〜」
 
「ちょっ、さすがにそれは話しちゃだめおねーちゃん! 恥ずかしいわ!」
 
「素手であつあつのハンバーグ触って泣いちゃってねー」
 
「やっ、本当にやめてってば! ……あああああルクスくんなにその顔!?」
 
 
 ルクスくんは一気に嫌そうな顔になり、こちらを見てくる。
 さすがにそんな反応される気はしてた! さすがに食器の使い方も知らなかった昔のアタシがおかしいってことは自覚してるもん! 今はちゃんとつかえるから大丈夫だもん!
 
 
「クラベル、オレこいつと同居するのやだ」
 
「今は比較的まともだから……それに部屋変更できないんでしょ」
 
「一般的に見たら異常だろうが……5年くらい前の時点で食器の使い方わからないってなんだよ……獣にでも育てられたのか」
 
「ひとに育てられたわよぅ!? っていうか、今は大丈夫だもん! ほらちゃんとつかえてる!」
 
「フォークを振り回すな馬鹿シャル!!」
 
 
 頭の真上からごん、と拳を振り下ろされる。
 ちょっと待って食事中に殴ることはないんじゃないかしら!?
 
 
「もう、食事くらい静かにしなさいよ。さすがにちょっとさわがしすぎ!
……というか、ずいぶんと仲良くなってない? 今日初対面でしょ?」
 
「仲良くなってない!」
 
「仲良くしたいのにぃ〜〜〜」
 
 
 ルクスくんはとにかく乱暴だ。むぅ、なんでかしら。
 
 ……でも、なんとなく、こんなやり取りが楽しい、と思えた。
 「前」もしていたから懐かしく思うのか……よくわからないけれど。
 
 アークスをやってたら、怖いこともある。アタシはそれを知った。
 だけど、楽しいこともあるって、そう思う。
 今は、こうやって、大好きな人たちと楽しく過ごすのが、アタシにとってのささやかな幸せだ。
 きっと、「あの場所」では体験できなかっただろう、大事な……
 
 
 
 
 
 
 
 
  あとがき
  日常回。描いててあねうえにバブみを感じてきた。
  この三人も義理兄弟感あって好きです。



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