アタシとルクスくんは、おねーちゃんに引っ張られナベリウスまでやってきた。
「よし、フォンガルフ討伐いっちょ行ってみましょー!」
「おねーちゃんとお仕事ー!」
「ああ、もう……」
「うなだれてないで武器構える! いつ敵が出てくるかわかんないわよ!」
おねーちゃんに言われて、ルクスくんは武器を構える。……ロッドだ。
おねーちゃんが構えた武器は……ダブルセイバーだっけ。
「……ルクスくん、テクニック使うの?」
「あ? ああ、フォースだけど」
「そうなんだ、すごーい。アタシテクニック上手くできないのよねー……」
アタシが呟くと、ルクスくんはそうか、と得意げにほほ笑んだ。
む、むう、なんか悔しいような気がする……。
おねーちゃんは先行して走っていっていた。振り向いて、こちらに手を振ってくる。
「おーい、なにやってんのよ、早くー!」
「あ、おねーちゃんがよんでる。いこっか」
「……ああ」
ナベリウスはすでに何回か来たけど、こうやって誰かとくるのは修了任務の時以来かな。
誰かと一緒って、なんだか頼もしい。おねーちゃんが先行して、アタシとルクスくんで後方支援。
「いや〜、レンジャーとフォースいると楽だわあ」
「倒しもらしをオレらに任せるのはどうかと思うんだが」
「でもルクスくん強いわよねえ〜。アタシが狙うより先に敵倒したりしてなかった?」
「お前が遅いんだよ馬鹿シャル」
「あっバカっていった! それちゃんとした意味覚えたんだからっ! バカって言っちゃいけない言葉でしょー!?」
「うっさい馬鹿!! 馬鹿に馬鹿って言って何が悪い!? っていうか子供みたいなことを言うな馬鹿!!」
「またバカって言ったーーーーーー!!」
アタシとルクスくんが言い合ってると、おねーちゃんが慌てて駆け寄ってきた。
「もー、ケンカしないの弟たち! いつ敵が出てくるかわかんないんだから!」
「なっ、オレはクラベルの弟じゃないっ!」
「弟みたいなもんでしょ。ほら、目標地点もう少し先よ。行きましょ」
「……はあ」
クラベルおねーちゃんはまた先に歩いていく。
ルクスくんは肩を落としてついていった。
「お前なんか文句とかないのかよ、シャル」
「……よくわかんない単語がでてきて文句を言うも何も……。
ルクスくん、おとーとってなに? アタシとルクスくんのこと?」
「はあ!? ……無知にもほどがあるだろ」
う、また言われた。前からよく言われるのよねえ無知だって。
仕方ないじゃない、アタシは……いや、言ったところでどうなるわけじゃないわよね。
ふとおねーちゃんのほうを見ると、おねーちゃんはかがんで草むらに隠れていた。
近づくと、服の裾を引っ張られた。隠れろということだろうか。
アタシとルクスくんはおねーちゃんの横にしゃがみ込んだ。
「シャル、ルクス、あそこ」
おねーちゃんが指差す草むらの向こうにはフォンガルフが数体いた。
あれを倒せばこの任務はおしまいなんだっけ。
「あたしが飛び出して先手うつから、ふたりともサポートよろしくお願いね?」
「はっ!?」
「あ、突進には気をつけなさいよ。というわけでいってきまーす!!」
おねーちゃんはぴょんとフォンガルフの群れの中に飛び込む。
フォンガルフたちが一斉におねーちゃんをにらみつけたのがわかった。
「わ、わわ、おねーちゃん大丈夫なの……!?」
「ほっといても大丈夫だとは思うが……サポートはするか。
馬鹿オカマ、何体か引き受けてやれ」
「え、引き受けってどうい……ぎゃんっ!?」
いきなり、ルクスくんに背中をおもいきり押される。
アタシは草むらから転がり出てしまった。おねーちゃんが驚いてこっちを見る。
「え? シャル? 後ろにいろって言わなかったっけ、あたし」
「るっ、ルクスくんが引き受けてやれって……う、うう、ええええええい!!!!」
アタシは群れの中に散弾銃を放つ。その数発がフォンガルフに当たり、こちらに向かってくる。
アタシは驚いて逃げ回った。
「や、やー! やーーーーっ!!」
「あー、もう無理するから……! ええい!!」
おねーちゃんが数体のフォンガルフに向かってダブルセイバーを投げつける。
宙を舞ったダブルセイバーはぐるりと円を円を描きフォンガルフに当たると、おねーちゃんの手元に戻った。
フォンガルフの数体が、おねーちゃんのほうに向かっていく。
「こんくらいしかひきつけられないか……!! ごめんシャルちょっと耐えて!」
「う、うええええええ!?」
いきなり、フォンガルフがとびかかってくる。アタシは慌ててそれを避けた。すぐ後ろを飛び越えていくフォンガルフ。
こ、怖い怖い怖い!! ルクスくんは何やってるのよお!! アタシはルクスくんがいる方を向く。
「ルクスくん、たすけっ……!!」
叫ぼうとした途端、いきなり火の玉がこっちに飛んできた。
アタシは驚いてそれを飛びのいて避けて、そのまま尻もちをついてしまう。
火の玉はフォンガルフに当たると爆発した。
「や、やー、やー……」
アタシのほうに向かっていたフォンガルフはみんな爆発に巻き込まれて倒れていた。おねーちゃんのほうにいたのも、だいぶ片付いたようだ。
ルクスくんがあきれ顔で草むらから顔を出す。
「何ビビってんだ、馬鹿」
「だっていきなりって!! 前触れもなくって!!」
「はいはいこっちも片付いたわよー。何やってんのそこは」
「こいつがオレのテクニックにビビって腰抜かした」
「だってえええ!!」
アタシはおねーちゃんに飛びつく。おねーちゃんはあたしの頭をなでてくれた。
うう、おねーちゃんが頭撫でてくれると落ち着く……
「うう、ルクスくんこわい、ルクスくんこわい……」
「しっつれいな。お前がビビリなだけだろ、馬鹿シャル」
「まあ、うん、テクニック撃つときは合図か何かしてあげたほうがいいかもしんないわねえルクス」
「こいつにしか必要ないだろ」
ルクスくんは嫌そうな顔でこっちを見てる。
うう、確かにびっくりしちゃったのは悪いなと思ってるけど、そんな顔しなくてもいいんじゃないかしら……。
「ま、うん、任務は無事終わらせられた。終わりよければなんとやらってやつよおつかれさま!
ふたりともがんばったがんばった!」
「うわ、撫でるな」
ルクスくんは頭をなでるクラベルおねーちゃんの手を払いのけていやがっている。
おねーちゃんはそんなルクスくんの反応を見て不満そうに口を尖らせた。
「まあ、これからはあたしの手助けなしでもクエスト頑張るのよー?」
「手助けしに来ることあるのか、ぐうたらなくせに」
「弟たちのためならいくらでも! どうしてもって時には呼んでくれれば駆けつけるわよ」
「ほんと? じゃ、またいっしょにいこ! おねーちゃんも、ルクスくんもっ」
「やだ」
アタシの言葉にかぶせるように、ルクスくんが言い放ってきた。
おねーちゃんはそれを聞いてこら! とルクスくんに向かって声を張り上げる。
「もー、仲良くしなさいよルクスー。ルームメイトでしょ、これからいっしょにやっていくんでしょー」
「知るか、顔合わせる時間なんかそんなに長くならないと思うし」
「な、仲良くしようよぉルクスくん」
「い、や、だ! とにかく帰還するぞ報告するぞ!」
ルクスくんは怒った顔でテレパイプに向かう。
……うぅ、ルクスくんこわい。仲良くなりたいんだけど、できるかな……
考えていたら、おねーちゃんがぽんとアタシの肩を軽くたたいた。
「ごめん、シャル。あの子本当はいい子だから、ちょっと人見知りなだけで」
「ひと、みしり?」
「あー、教えてなかったっけ? 慣れない人には冷たくしちゃうってこと。
……いつか仲良くなってくれるわよ。すぐになんて、普通でも難しいんだから……ゆっくりでいいのよ」
「……うん」
アタシはこくりとうなずく。
急がなくて、いいよね。ゆっくりで、いいよね。
……きっと、仲良くなれるよね。