「あ、あの……もしかしなくても、依頼を受けてくれたシャルさんですか?」
「んむ、そうよ」
ショップエリア。
アタシはある人が依頼を受けてくれる人を探しているということで、その人のところを訪ねていた。
橙色のボディのキャストさんだ。
「あ、ありがとうございます! 依頼の話をする前に、ちょっといいですか?
第二惑星リリーパの砂漠で小さな影を見かけたこと、ありませんか?
影がどこにいるとか、知りませんか?」
迫るように訪ねてくる。
惑星リリーパは最近アタシが行けるようになった惑星だ。
砂だらけで、あと機械みたいな機甲種がいっぱいいる。
でも、小さな影……? 思い出してみるが、見た覚えはない。
「ううん、見たことはない……わね」
「そうですか……変な質問でした。発見報告はあっても、どこにいるかはまだだれもわかってないことなのに……。
あ、申し遅れました。私、フーリエと言います。これでも一応アークスなんです」
ぺこり、頭を下げるフーリエさん。
フーリエさんはそのまま話を続ける。
「リリーパにいる小さな影の話、時々噂になっているんです。
その小さな影に私、この前命を救われたんです……って言って、信じてくれます?」
「んむ……助けてもらったってこと?」
「はい。砂漠で怪我して、動けなくてああもうダメだって思った時にあの影が助けてくれて……
いろいろあって戻ってこられたのですが、命の恩人にお礼も言えてないんです」
話すフーリエさんはとっても真剣だった。
こんなに真剣なら……きっと、本当のことなんだろう。
「だから、だからっ! 私からの依頼は、たった一つです!
私の代わりにあの小さな影を探してはもらえないでしょうか!」
「探し……? えっと、いやっていうわけじゃないんだけど……フーリエさんは、探しに行けないの?」
「はい、私も自分で行きたいとは思うのですが、まだ怪我が治っていなくて……。
私の話を信じる信じないはどうでもいいです。あれが夢だったのか、真実なのか、せめてそれだけでもはっきりさせておきたいんです。
……お暇なときでいいのでよろしくお願いします」
そういうわけで、リリーパにやってきたアタシ。
とりあえず砂漠を歩き回るが、めぼしいものはみつからない。
正直、砂が目に入って痛いし、歩きづらいしで探すのは大変だ。
フーリエさんは小さな影に助けられたことが夢だったのか本当だったのか知りたいということだった。
ということは、その小さな影が本当にいることが分かればいい、ってことだろうか。
お礼したいって言ってたし。
周りを見渡しながら歩く。
どういうものを見つければいいのかしら……考えつつ歩くが、目立つものは見つからない。
ふと、視界に鮮やかな青が飛び込む。
それはこないだナベリウスであった青い髪の人だった。
あの人も何か探してるのかしら。……ちょっと怖いけど、話しかけてみようかしら。
アタシはその人のほうに駆け寄る。
「あ、あのぅ」
「……!」
その人は驚いて顔を上げる。
アタシを見る目は、信じられないものを見るようだった。
あれ? まずかった?
「あなたは、この間の……どうして私の存在に気づけたんですか」
「どうしてって……見つけたから?」
「はっきり見えたってことですか……気配の消し方が甘くなってる?
いや、そんなことは……」
何かぶつぶつとつぶやく。
なんか、考え込んでるみたいだけど……。
「……アタシ、なにかだめなことしたかしら」
「だめというか……わたしは気配を完全に消していたんです。気付けないはずなんです。
それなのに、こともなげに近寄ってくるなんて……まあ、あなたにはそうは見えてないのかもしれませんが」
気配を完全に消して……よくわかんないけど、姿をはっきりと見たのは本当だ。
今もちゃんと見えている。だからアタシは見つけることができたんだし……
「他のアークスには見つからないのに、あなただけは私を見つける。
よほど敏感なのか、それとも……」
「……んむ?」
「何でもありません。その感覚の鋭さ、モノ探しや人探しに活かすべきだと思いますよ」
それでは、とだけ言ってその人は立ち去ってしまう。
……今ちょうど人探ししてるところなんだけどね。
すぐに見つけられればいいんだけどなあ……
「お、相棒!」
「んむ、アフィンくん」
声をかけられ顔を上げると、アフィンくんが手を振っていた。
アフィンくんはこちらに歩いてくる。
「奇遇だなー、こんなところで会うなんてよ。
何か探し物でもしてんのか?」
「ん、うん。リリーパにいるっていう小さな影を探してるの。
アフィンくん、何か知らない?」
「あー、なんだ、あいつら探してるのか。
それなら……さっきあの辺で見かけたぜ?」
アフィンくんはそう言って少し離れたところを指さす。
わ、アフィンくん先に見つけてたんだ。すごい。
「わわ……アフィンくん、ありがとう!
アタシ、結構探してたつもりなのに見つけられなかったわ」
「どういたしまして。おれ、昔から他人の探し物よく見つけるんだよな。
自分のは見つからないんだけどな」
「むむ、そうなの? じゃあこんどアフィンくんの探し物見つけたらアタシが教えるわね!」
「お、おう……サンキュ」
「とりあえず、見てくる!」
アタシはアフィンくんが指差したほうにかけていく。
アフィンくんもアタシと一緒に来てくれた。
「あ、このあたりだよ。……んー、さすがにもういないか」
「どっかいっちゃったってことかしら。んん……」
「……あ、でもあそこ」
アフィンくんが地面を指さす。
アタシは指さされた先を探る。そこには小さな布が落ちていた。
アタシはそれを手に取る。
「なんだそりゃ……布か?
機甲種の持ち物なわけがないし、もしかしてあの小さな影のか?」
「んむ、そのかのーせいはあるわね……」
こんなものがあったってことは、たぶんこれを落とした本人が……小さな影がリリーパにいるっていう証拠になるだろう。
フーリエさん、助けてもらったことは本当だったんだ。疑ってたわけじゃないけど、本当だってわかったことがなんとなくアタシもうれしい。
「正直さ、この惑星はわからねーことが多すぎるよな。
だからその布が証拠になるかも判断が難しそうだ」
「む、そうかしら?」
「うん、直感というか、予感というか……まだまだ何か秘密がありそうなんだよなー。
ま、調べてりゃいつかわかるか」
「そうよね、調べるのもお仕事だもんねっ」
そうだな、とアフィンくんも笑う。
アフィンくんはもう少し探索するようだ。
今度一緒に任務に行こう、と約束してアタシたちは別れた。
アフィンくんと別れた帰り道の途中、砂漠をとぼとぼ歩くテオドールくんの姿が見えた。
何か憂鬱そうで、ため息をついている。
アタシはテオドールくんのほうに駆け寄る。
「テオドールくーん、ためいきついてどうしたのー?」
「あ……こ、こんにちは。その、ちょっと怒られちゃいまして」
「怒られた? なにかあったの?」
「その……もっとまじめに戦え、だそうです。そんなこと言われても、最初からやる気なんてないのに」
うつむくテオドールくん。
そういえばテオドールくんは戦うのが好きじゃないんだっけ。
「アークスは遮二無二戦うものっていったい誰が決めたんでしょう。
どうしてぼくたちは戦うのでしょう……」
「うっ、難しそうな話……んーと、戦えるから?」
「戦う力があるから戦うというのは、あまりにも論理が乱暴な気がします……」
何で戦うのか、とか正直ちゃんと考えたことはなかった。
ダーカーは倒すべき敵だってことはわかってるんだけど、それ以上は、あんまり。
アタシとしては、ダーカーに対して個人的な恨みもあるから戦うのに抵抗はないけど……みんながみんなそうだってわけじゃないのよね……
「……完全に愚痴ですね、すいません。まあ、怒られない程度に頑張ります」
「んむ、無理しないでね」
軽く手を振り、テオドールくんを見送る。
……大丈夫かなあ……
アタシはアークスシップに戻った後、フーリエさんに会いに行く。
「フーリエさん、それっぽい手がかり、見つけたわ!」
「え、本当ですか?」
アタシはうなずき、リリーパで見つけた布をフーリエさんに見せる。
「これ見つけたの。たぶん、その小さな影のもちものだと思うんだけど……」
「そんなものが……だとしたら、ちゃんとお礼を言う相手はいてくれたんですね……!
よかった、よかったです……」
フーリエさんはうれしそうに顔をほころばせる。
……本当にうれしそうだ。
「シャルさん、ありがとうございました。
私、早くけがを治して直接お礼を言いに行きたいです。
……もしご迷惑でなければ、その時もまたお願いしていいですか?」
「うん、もちろんよ。アタシにできることなら手伝わせて。
アタシもその小さな影に会ってみたいし!」
フーリエちゃんはアタシの言葉を聞いて、また嬉しそうな顔になった。
そしてありがとうございます! と頭を下げた。
リリーパの小さな影……どんなひと、なのかしら。
あとがき
リリーパ編突入。そしてNPCイベントラッシュ! 加減しろ馬鹿!
オムニバスからじゃなくて素直にイベクロから抜き出してるからこういうことになるんですよね。
というか全部伏線に見えてくるし実際わりと伏線率高い。
ルクスやクラベルの出番は減りますが前二つにルクス出ずっぱりだったから別にいいじゃろ(真顔)
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