「新たなマターボードが産まれた。
これは、貴方の行為が意味をなし、事象の好転を示す。
わたしとわたしたちから、千の感謝を」
 
 
 静かに語るシオンさん。
 相変わらずその言葉は難しい。
 
 
「易き道程でないことを、私たちは知り、それでもわたしは貴方を頼った。
応えたのは貴方だ。貴方の意思が応えた。ゆえに、わたしは感謝する」
 
 
 ……たしかに、シオンさんが導くようにアタシは進んでる。
 それがシオンさんの願いにこたえてる、ということだろう。
 
 
「貴方の認識において、有意事象の取得が行われている。
得たものは貴方以外に得られぬものとなる」
 
 
 ……また聞いたことがない言葉。
 意味を聞きたいけど、たぶん聞いてもアタシには理解できないんだろう。
 
 
「貴方が手にしたかの武器について、私は知らない。知りえない。
ただ、それが貴方にとっていずれわかる事象であるとわたしは知っている。
……これ以上語るべき言葉をわたしは持たない……許してほしい。
そして、幾度となく貴方を頼らねばならないわたしをどうか……許してほしい」
 
 
 
 
「……で、お前が前受けたっていう調査の結果はどうだったんだ」
 
 
 部屋でごろごろしていたら、ルクスくんに話しかけられる。
 ルクスくんはソファに座り、端末を操作していた。
 
 
「んー? えっとね、なんか……イジョウで、フシゼンだっていってたわ。
ナベリウスは、思ったより安全じゃないのかもって。しばらく調査するらしいけど……」
 
「ふーん……とりあえず、お前はちゃんと調査できたんだな」
 
「できたわよぅ! ばかにしてるでしょ、ルクスくんっ! アタシわかったんだからね!」
 
「お前は馬鹿だと思ってるから馬鹿にしてるけど?」
 
 
 はん、と鼻で笑うルクスくん。
 ぐぬぬ……確かにルクスくんに比べたらあたまよくないと思うけど。
 
 何か言い返そうかと思ったが、ふと別のことを思い出す。
 
 
「そうだ、ルクスくん」
 
「なんだ、馬鹿シャル」
 
「できればばかっていうのやめてほしいのー……じゃなくて、これのことなんだけど」
 
 
 アタシはルクスくんにこないだ拾った武器の破片を見せる。
 ルクスくんは目を丸くした。
 
 
「なんだそれ」
 
「武器の破片、らしいわ。だけどアタシ、これをどうすればいいかわかんなくって。
ルクスくん、これどうすればいいか、わからない?」
 
「破片ってことは壊れてるのか……? オレだって武器は詳しくないぞ。
オレに聞かれても困る……あ」
 
 
 考え込んだルクスくんが、顔を上げる。
 
 
「どうしたの?」
 
「……武器のことなら、武器の専門家に聞くのが適切かと思って。
専門家に心当たりもある、が……」
 
「……が、何なの」
 
 
 ルクスくんはまた何か考え込む。
 そしてアタシをじっと見た後、口を開いた。
 
 
「いや、今はスランプらしいと聞いていたからさ。
お前なんかが言っても相手にされないんじゃないか?」
 
「うえぇ、なんでよぅ……」
 
「スランプの原因については知らん。まあ腕はいいらしいぞ?
創世器に匹敵するっていうくらいだし」
 
「……そうせいき?」
 
 
 アタシが知らない言葉を繰り返したら、ルクスくんは顔をしかめて嫌そうな顔をした。
 あ、しまった……
 
 ルクスくんは頭を抱えてため息を一つつき、いやそうな顔のまま口を開く。
 
 
「……創世器っていうのは、簡単に言えばべらぼうに強い武器だ。
威力とかが規格外で、量産性や汎用性は度外視して作られた……だから扱いづらくて、ごく一部、優れたアークスにしか使えない。
それに匹敵するくらいの武器を造れるくらいの人物だから、要するに、お前は自分の立場をわきまえろ」
 
「ぎゃん!? いひゃ、いひゃいわるくしゅくん!」
 
 
 ルクスくんがいきなりアタシの頬をつねる。
 わきまえろって言われても、そもそもアタシはまだアークスになったばかり。自分が優れてるとかそんなことは思ってない。
 ルクスくんが手を離してくれたので、つねられたところをさする。
 
 でも、武器の専門家さんかあ。
 武器を作ることができるなら、直すこともできるのかしら?
 なにか、わかるかもしれない。もしかしたら、この武器を直すこともできるかもしれない。
 それなら……うん、会いに行ってみよう。
 
 
「る、ルクスくんっ、その人のこと教えて! 会いに行くわ!」
 
 
 
 
 黒いボディのキャストさん……ジグさん。
 確かに、ルクスくんが教えてくれた通りショップエリアにいた。
 なんだか、どことなくけだるげだ。アタシは恐る恐る近づく。
 
 
「あ、あのう」
 
「なんだ、わしに何か用事か?」
 
「はい、あ、アタシ、シャルって言います。
その、見せたいものがあるんです」
 
「見せたいもの? わしの情熱を呼び覚ますようなものだとでも?
無駄だ、無駄無駄。冷め切ったわしの情熱はそんじょそこらの武器では……」
 
「せめて、見るだけでいいですっ! えっと、これなんですけどっ!」
 
 
 アタシは武器の破片をジグさんに差し出す。
 すると、ジグさんははっとして急に顔を上げる。
 そして、アタシから武器の破片を受け取りまじまじと見つめ始めた。
 
 
「な、何だこれは……? 無駄しかないようなフォルムでその実、すべてがかみ合っている……。
この形状、どうやって作って……いや、それよりもこれだけのものをどうやって練成したというのだ……」
 
「……え、えーっと……」
 
「お、おいお主、これをどこで手に入れたのだ!?」
 
「え、な、ナベリウスの凍土で、氷の中にあって……」
 
 
 急に詰め寄られ、アタシは慌てて話す。うう、なんというか、少し違う意味で怖い。
 ジグさんはアタシの言葉を聞いて何か考え込む。
 
 
「氷の中で……? そんな、しかしこれは……っ、ええい! 悩むより行動じゃ!
お主、この壊れた武器の一部を貸してはくれまいか? わしなら、修復できるやもしれん」
 
「ふえ、本当ですか!? ……あ、でもそういうのって、お金とかかかるんじゃ……」
 
「そんな心配はいらん。見返りを要求などせんよ。
むしろ逆じゃ、ただでとも言わん。必要なら、お主のために武器も作ろう!」
 
 
 うれしそうに言うジグさん。
 そ、そこまで……? っていうかそういうのってアリなの……?
 考えもつかなかった言葉がどんどん出てきて、アタシは戸惑う。
 
 
「えっと、その、なんでそこまで……」
 
「武器の一部、それも破損状態……だのに、これほどの魅力を醸し出すその真の姿を見てみたい!
わしの中でくすぶり消えかかっていた情熱が再び燃え上ってきたのだ!」
 
「は、はわあ……」
 
「ふふ……楽しみだ、楽しみだぞ!
お前さんの真の姿は一体どんなものなのか! わくわくが止まらぬっ!」
 
 
 ……なんだかすごく楽しそうに武器の破片を観察するジグさん。
 たぶん、ジグさんに任せておけば安心……よね?
 武器の専門家らしいし……少なくともアタシが持っているよりいいはずだ。
 いいと……思うんだけどな……。
 
 
 
 
 ふと思い立ち、マトイちゃんのいるメディカルセンターに寄る。
 凍土のこと、話したいって思ったんだ。雪がいっぱいある、綺麗なとこ。
 さすがにこないだの調査の時のあれこれは話しちゃだめだと思うけど。
 
 マトイちゃんはメディカルセンターの前で、前のように周りを眺めていた。
 アタシはマトイちゃんに駆け寄る。
 
 
「マトイちゃんっ! お話しましょー!」
 
「あ、シャル。なにか……う、つっ……」
 
 
 急にマトイちゃんが頭を抱える。
 え、急にどうしたの? アタシはどうすることもできなくて、おろおろと慌てることしかできない。我ながら情けないと思う。
 
 
「ま、マトイちゃん? だ、だだ……大丈夫?」
 
「……ごめん、うん、だいじょうぶ。
なんだかちょっと頭が痛いだけ……」
 
「それ大丈夫じゃないっ!
なにかあったの? 無理に昔のこと思い出したりとかしてない?」
 
「してないよ。そんなに無理、できないし……」
 
 
 まだ頭が痛いのか、つらそうな顔のマトイちゃん。
 なんでか不安で、見てられない。
 
 
「ん、む……お話しようと思ったけど、マトイちゃんが具合悪いならやめておくわ」
 
「うん……わざわざ来てくれたのに、ごめんね。
ちょっと休めばよくなると思うから」
 
 
 ……大丈夫なのだろうか。少し不安になる。
 苦しそうなマトイちゃんを見るのは、なんだか『痛い』。
 なにもなければいいのだけれど……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  あとがき
  無意識主マト製造マシーン! 私だ!
  創世器についてのパティエンティアによる説明をかっとばし、ジグさんとの初対面シーンもかっ飛ばしました。
  パティエンティアについては挿入するすきが見つからなかっただけで、嫌いとかそういうわけではないんです。むしろ大好きです本当です。
  あ、シャルの『痛い』という発言については今後回収します。本当です。
  
  シャルがマトイちゃんが苦しがってるのを見るのを嫌がるのはまあつまりそういうことです。
  因果とかそういうのが、この子たちにないわけない。
  



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